三島由紀夫「美しい星」
冷戦期の書かれたもので、正直、三島さんもこういうものを書くんだなと思った。もっとも、三島作品をそんなにたくさん読んでないので、他にもあるのかもしれませんが。
読み始めた時は、大江健三郎作品の匂いがした。しかし、ところどころに三島さんならではの絢爛とも言える文章表現が見られました。
タッチとしては、「美徳のよろめき」のようなシニカルな調子で描かれています。
物語は、大杉家の家族は、空飛ぶ円盤を見たことから自分たちを宇宙人だと自覚することから始まります。そして、同じく宇宙人であると自覚している羽黒一派と論争になります。その場面が、カラマーゾフの兄弟の大審問官の場面と比較されているのです。
美しい星はもちろん地球のこと。しかし、それは核戦争の危機を抱えているので、揶揄した表現と言えます。理想に燃える大杉家は、大審問官の場面でいうとキリストのこと。対する羽黒派は現実路線と言えます。
しかし、双方とも地球人ではないと主張しているわけで、地球のことを憂うのは宇宙人だけになるわけです。無関心とも言える地球人。。。これが一番悲しいですね