宮城谷昌光「風は山河より」第六巻
神仏を恐れず三河の寺社を容赦なく焼き農民から略奪する竹田軍。これほど信玄のことを悪逆非道のように描いた作品も読んだことはない。ただ、宮城谷さんは史実に忠実な人で、淡々と史料を基に書いていくので、真実味を増しています。
姉川の合戦の様子も今までの歴史物とは違った視点での描き方で面白い。
野田城外で笛の音に誘われて銃撃された伝説的な話も出てきますが、真相については含みがあるように描かれています。
戦わねばならぬときに戦わず、戦わなくてもよいときに戦う者を、家康は憎む。
徳川はいわば情の政体で、宗教団体に似ているが、たとえ被害が甚大でも斃れにくいしぶとさをそなえている。家康は信じがたいほどの不運を奇蹟的な幸運にかえる力をもっており、まさに教祖的な存在であり、人と家を能力の点だけでは観ない神知をもっている。
悲喜交交を避けうる人はいない。
信玄が生きのびるすべは、三河で兵馬をとどめず、一戦もせずに通過することです。
武田軍は古色蒼然たる掠奪の集団で、木曾義仲の軍と変わりがない。その点、織田信長の軍とは雲泥の差があり、武田軍は征く先々の農民に嫌われる悪質さをもっていた。
巻末の宮城谷さんの解説ではさほど遠くではない小幡城のことが触れてあり行ってみようかなと思いました。
また、このシリーズのカバーや挿絵は原田維夫さんで、陳舜臣さんの「小説十八史略」と同じでよかったです