題名の「むらさきのスカートの女」の時点では、その女の存在は僕にとって不明でした。その女を観察するのが「黄色いカーディガンの女」です。この女の存在も不明でした。この二人の女は同一人物なのか・・・
物語の前半は、自己存在の不確かさに悩む女の話かと思っていましたが、筆者が女に名前をつけてから、物語は現実味を帯びてきます。
この物語の話者は〈うちの近所に「むらさのスカートの女」と呼ばれている人がいる。〉と三人称になっていますが、もともとは〈わたしは「むらさきのスカートの女」と呼ばれている。〉の一人称だったのだそうです。
このあたりの筆者の心の揺れというものが読み取れて、そこに人間の存在の不確定さが感じられ、この作品の魅力になっていると思います。案の定、この作品は海外でも翻訳されているそうです。
巻末の英語翻訳者の解説の中で、「ヌヌ 完璧なベビーシッター」の著者のレイラ・スリマニも推薦文をよせているということです。