ヴェネツィアに召喚されたマルコ。かれは政治の指導部の中枢として過ごすことになります。この巻で描かれるのは第3巻までと違って,レパントの海戦を中心としたヴェネチアの歴史です。
ヴェネチアの歴史を描いた塩野さんの作品としては「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年」があり,レパントの海戦については,題名そのものの「レパントの海戦」という本があります。
「レパントの海戦」はずいぶん前に読んだので,今回この本でレパントの海戦について改めて読み,すごい海戦だったなと思いました。
トルコ帝国の領土的野心に対するヴェネツィア,ローマ法王庁,スペインのキリスト教国との対決。塩野さんはトルコ帝国のスレイマン一世の野心についてこう書きます。
領土型の国家の指導者にとって,領土を拡大するくらい,占めている地位を確かなものにすることもないのである。なぜなら,この種の国に住む人々自身が,領土を拡大するくらい指導者の能力を示す計器もないと信じており,それをやり遂げた指導者を強力に支持するようになるからだ。ゆえに,この種の国のリーダーが領土を放棄することはほとんどありえない。放棄したとたんに,国民の彼への支持が落ちるのは確実であったからだ。
ただ,スレイマン一世は,ヴェネチアに領土的野心がないことを理解し,キプロス島には手をつけませんでした。ところが,スレイマン一世亡きあとの背リムは,己の力を示すためにキプロスを占領してしまいます。そして,レパントの海戦となるのです。
レパントの海戦の後,ヴェネチアは現実路線をとり,トルコ帝国との妥協点を探り,実をとるヴェネチアはトルコ商館をヴェネチアに置くこととします。ただ,塩野さんはヴェネチアのトルコ大使の帰国後の元老院の報告を載せています。簡単にいうと,ヴェネチアの弱腰が戦争を招いた,と。
この物語の主人公のマルコはどちらかというと,トルコとは協調していこうとした人物でした。はて,塩野さんの真意はどこにあるのかなと思ってしまいました。
いずれにしても,歴史は学ぶ必要があるものだと思います。