スコットランドの孤島の別荘が物語の舞台です。
哲学者ラムジー氏が息子のジェイムズを連れて灯台へ前夜と,およそ十年後に,実際に灯台に行く当日のことだけの物語です。
何も大きん出来事は描かれていません。ただ,十年後にはラムジー夫人と子供二人が亡くなっています。
プルーストの「失われた時を求めて」やジョイスの「ユリシーズ」のように登場人物の意識の流れが描かれています。「失われた時を求めて」や「ユリシーズ」が専門的な叙述が多いのに対し,ウルフが女性であるためか,ラムジー夫人を中心とした女性の立場の記述が多く,日常的な思いで描かれており,男性からも共感できます。

・・・高くそびえ立つ山の頂から,長々しくも荒涼とした時の流れのすべてを見渡したとしたら。ブーツの片足で蹴とばせるちっぽけな小石だって,シェイクスピアより長もちするだろう。

「人生がここに立ち止まりますように」とでもいうように。夫人は何でもない瞬間から,いつまでも心に残るものを作りあげた

ああ,死んだ人たち!とつぶやいてみる。哀れむこともわきに押しのけることもできるし,少し軽蔑することだってできる。死者はわたしたちの思いのままだ。