角川文庫で片岡義男さんの本を読んでいたのですが,間違って新潮文庫の片岡作品を買ってしまいました。
読んでいて,あれ角川文庫の片岡さんと少し違うのかな・・・ まあ,書かれた時代が違うからなのかもしれませんが。
途中でトンネル内での事故が発生。巻き込まれそうになり危険が迫り,なんとか脱出。片岡作品にはスリリングな展開でした。
日常とは,そういうものでしょう。解答はいつまでも出ないのではないかしら。そして,ようやく出たときには,すでに遅すぎるのね。あるいは,本当はまちがっていたのに,これでよかったのだと無理に思い込んで,自分をだますことになるのではないかしら
人はモラトリアムを望むものですね。決断することを送らせて,その結果が悪いものであっても,これでよかったと思い込ませる。。。しかし,片岡さんの作品は,そんな決断力が必要だと叫ぶバイタリティあふれる作風ではありません。
この本の中に水野さんというノンフィクション作家を登場させます。女性の会話の中ですが。
・・・あの女性の日常が,克明に描いてあるでしょう。なんでもない日常だし,私や紅子の日常とまったくおなじだけれど,そのディテールのひとつひとつが,とてもスリリングなのね。息をのむほどに,夢中になって読んだわ。水野さんは過程を楽しんで書いたのよ
片岡義男という作家さんは,まさしく過程を楽しんで書く作家さんと言えます。女性のディテールを描かせたら最高ですね。
男というひとつの状態だけでは,世界をまかなうことは無理なのよ。男という状態のなかに,意識して作っていく女という状態を,自分の感覚やペースで,織りこんでいくのね。世界はそれだけで確実に広がるわ。発信するにしても,あるいは受信するにしても。
このことこそが,片岡さんが女性を描く理由なのでしょうね。
片岡義男という作家の心の中を覗き込むことができた気がします。
さて,題名の「あの影を愛した」ですが,主人公の女性が愛した影とは何だったのでしょうか・・・