いつもの周五郎さんのような作品と,少しいつもと違う作品が収めてあると思いました。
僕が好きなのは「妻の中の妻」。この題名からして,妻が主人公だと思って読んでたけど,あれっ? どの妻だ???
江戸表から帰国した,藩内で実力第一の江戸家老。それを収めようとする国表の面々。特に正義感の強い若い勘定奉行が江戸画廊に意見する。それを苦々しく思い,その勘定奉行を葬ろうとするが,そこに表れたのがその江戸家老の妻。その妻は結婚後,ほとんど見向きもされなかったのだが,一生の願いを夫である江戸家老に頼むのです。その願いを江戸家老は気まぐれか,聞き入れ,妻と仲良くなるのです。
勧善懲悪のストーリーが多い周五郎さんにしては珍しい展開でありながら,爽快感もある話でした。
反対に爽快感がないのは,表題の「あとのない仮名」。凄腕の植木職人の物語。彼は,植木の仕事だけに限らず人生をある意味,自己の責任をかえりみず,他者との調和も考えず生きている。他者から見れば,女にだらしないのだけど,それを女の性にするような人物。家を顧みず,妻子から見捨てられても,それを妻子の性にしてしまう。読んでいて,気分の悪くなる人物。周五郎さんが最後に彼を救ったら,どうしようかと思ってましたが,そんなことはありませんでした。