この巻は,第一編「スワン家のほうへ」の中の,「スワンの恋」と「土地の名―名」が収められてます

「スワンの恋」は,第1巻の「コンブレ―」で登場したスワンの若かりし頃,オデットの恋について描かれてます。また,「土地の名―名」は,再びこの物語の主人公の「私」に戻り,スワンとオデットの子供であるジルベルトへの恋心について回想してます。

 

この巻の冒頭で訳者の吉川一義さんは,「恋に落ちるという心理現象が,いかに対象とは関係のない,主観的な想像力の病であるかが納得されるはずである」と書いてます。まさしく,「スワンの恋」では,スワンのオデットへの恋心が,事細かに分析されて記述されてます。ある意味,ここまで恋心について,分析され細々と記述された物語は他にはそうそうないと思います。読んでいて,それ分かるなぁとか,自分にもあるあるって感じで読みました。恋ってつらいものですね・・・ この編は,スワンの次の言葉で終わります。

 

いやはや,自分の人生を何年も台なしにしてしまった。死のうとまで思いつめ,かつてないほどの大恋愛をしてしまった。気にも入らなければ,俺の好みでもない女だというのに!

 

でも,1巻から読んできた読者は知ってます。スワンとオデットが結婚してることを。この後,どういういきさつで二人が結婚したかは,この後の巻で書かれてるのでしょうか・・・

そして。この巻のもう一つの「土地の名―名」では,コンブレ―で見かけたジルベルトを「私」はパリで見つけるのです。そして,遊び友達となります。しかし,ジルベルトに「私」は距離を置かれてしまいます。「私」は,ジルベルトとの恋を感じるために,ジルベルトとつながってるものを求めます。ジルベルトの母親のオデットがブーローニュの森を散歩することを知り,彼女になんとか会えないかと出かけるのです。そのことを懐かしんだのか,この巻の終わりは次の文で閉められています。

 

あるイメージの想い出とは,ある時間を哀惜する心にほかならない。そして残念なことに,家も,街道も,大通りも,はかなく消えてゆくのだ。歳月と同じように。

 

ところで,この頃のフランスは日本ブームだったようです。この物語の中にも,すでに何回か日本が登場してきます。

 

あるいは相手の女性に愛してると告白する歓びを断念することでいっそう相手の好意を惹こうとすることもあり,これなどは日本の庭師が一輪のみごとな花を咲かせるために残りの花はどんどん摘んでしまうのに倣ったものといえよう。

 

ちなみに,この本の表紙の絵は,「マネの描いたレジャーヌの肖像」と題したプルーストのいたずら書きだそうです。