はじめに
『プレバト!!』の新企画「俳句グランドチャンピオントーナメント」(1月29日放送)を見ました。今回は通常のタイトル戦と異なるトーナメント形式の大会で、俳句を作る力と批評する力の両方を求められるところが面白かったです。出場者は、タイトル戦の優勝経験者8名。審査員には、俳句界の重鎮である高野ムツオ先生、神野紗希先生、西村麒麟先生の3名が招聘されました。
1回戦
まずは1回戦の感想から。お題は「雪の東京駅」でした。
第1試合 梅沢富美男 vs 犬山紙子
義士の日の暮れて駅舎の赤煉瓦
梅沢富美男(特別永世名人)
雪の駅君の幸せ願わない
犬山紙子(特待生1級)
結果は、梅沢さん2票(高野・西村)、犬山さん1票(神野)で、梅沢さんの勝利。これは梅沢さんが強すぎましたね。「義士の日」(赤穂浪士が吉良上野介を討ち取った日)という季語の使い方のお手本のような一句。「雪」と書かずに雪を感じさせるだけでなく、赤のイメージが「赤煉瓦」としっかり重なり合っているところがニクい。犬山さんの句も悪くはないんですけど、やっぱりちょっとベタかなあ……。共感できないよりは共感できたほうが良いのは確かですが、あまり行き過ぎると類想の沼にはまってしまうという、このラインを見極めるのが難しいですよね。
第2試合 中田喜子 vs 森迫永依
風花呼び込みお召し列車発車
中田喜子(名人10段)
風花のナンジャモンジャこだま貸切森迫永依(特待生1級)
結果は、中田さん2票(神野・西村)、森迫さん1票(高野)で、中田さんの勝利。風花を呼び込んでいるという意味なら「風花“を”」としたほうが良いのではと思ったのですが、中田さんの話だと「お召し列車発車時にちょうど風花が降ってきて“何か”を呼び込んでいるようだ」とのことなので、結局何を呼び込んでいるのか分からないんですよね。森迫さんの句も、うーんって感じ。「ナンジャモンジャ」について、森迫さんは「もしカードゲームのほうでなく木として読まれたとしても、ナンジャモンジャには雪のような花がつくから~」と説明されていましたが、ちょっと苦しいと思いました。
第3試合 千原ジュニア vs 横尾渉
八重洲口襟巻残る郷里の香
千原ジュニア(永世名人)
カメリハやみゆき通りは冬夕焼横尾渉(永世名人)
結果は、ジュニアさん1票(西村)、横尾さん2票(高野・神野)で、横尾さんの勝利。やっぱり「襟巻残る」が引っかかりますよね。「郷里の香」が「襟巻」に残っていることを詠みたいのであれば、「に」は絶対に外せない助詞だと思います。これまで助詞の使い方にこだわってきたジュニアさんとは思えないミス。高野先生による添削後の「襟巻に残る郷の香八重洲口」だったら勝敗は分からなかったですね。ただ、何かに故郷の香りが残っているという発想の句はほんのり類想の匂いがするので、いずれにせよオリジナリティという点で横尾さんの句に軍配が上がっていたかもしれません。
第4試合 的場浩司 vs 蓮見翔
切符切る鉄の音一つ夜半の雪
的場浩司(特待生2級)
中吊りは春色待春の駅舎蓮見翔(特待生3級)
結果は、的場さん2票(高野・神野)、蓮見さん1票(西村)で、的場さんの勝利。的場さんの句、好きだなあ。音を詠みつつ、静寂も表現していて素敵。ただ、「音」を「ね」と読むのは楽器、虫、鳥、鐘に限られてくるそうです(へぇ~)。「おと」と読ませる場合の添削例である「切符切る寸鉄の音夜半の雪」も良いですね。蓮見さんの句に関しては、私も「春色」と「待春」が近すぎると感じましたが、それ以上に作者が車内と駅のどちらにいるのかが気になりました。しかし、着眼点は流石。先取りした季節を詠むのは高度なことだと思いますが、いつか成功例が見てみたいです。
準決勝
続いて準決勝です。お題は「ラスト一個の餃子」。審査員には、1回戦で敗退した犬山さん、森迫さん、ジュニアさん、蓮見さんが加わりました。
第1試合 梅沢富美男 vs 中田喜子
待春や次の餃子を焼く準備
梅沢富美男(特別永世名人)
立冬や餃子のひだをひとつ足し中田喜子(名人10段)
結果は、梅沢さん3票(高野・神野・ジュニア)、中田さん4票(西村・犬山・森迫・蓮見)で、中田さんの勝利。いやー、これは甲乙付け難い。梅沢さんの句もワクワク感があって良いですし、中田さんの場面の切り取り方も面白いです。でも、自分だったら中田さんに入れるかなあ。「丁寧な暮らしをこう詠むかー」という、やられた感がありました。「足す」ではなく「足し」にして余韻を持たせているところも上手い。それに対し、梅沢さんの句は中田さんや森迫さんからの指摘にもあったように、「待春」と「次の餃子を焼く準備」の距離感が近く、季語選びがやや安直に思えます。
第2試合 横尾渉 vs 的場浩司
粉雪の古書街餃子に酢と胡椒
横尾渉(永世名人)
凍玻璃や餃子の硬き耳嚙る的場浩司(特待生2級)
結果は、横尾さん4票(神野・西村・犬山・ジュニア)、的場さん3票(高野・森迫・蓮見)で、横尾さんの勝利。個人的には的場さんの句のほうが好きでした。「凍玻璃」と「餃子の硬き耳」も、先ほどの梅沢さんの句と同様に距離感の近しさが気になりますが、「凍玻璃」という、この句にぴったりなマイナー季語を見つけて持ってきたところは評価されるべきでしょう。対して横尾さんの句は前半と後半の内容が離れすぎていて、最初に見たときはあまりしっくり来ませんでした。が、高野先生による「古書街に粉雪餃子に酢と胡椒」という添削句を見て、一気に腑に落ちた感じがしました。
準決勝用に用意されていた秀逸な句
餃子全部食う結婚する小春
犬山紙子(特待生1級)
寒鴉餃子冷めゆく納税期森迫永依(特待生1級)
決勝戦に行く前に、準決勝に進んでいたら良い勝負をしていた句として2句紹介がありました。犬山さんの句は明るいですね。幸せに向かってまっしぐらな女性の姿が目に浮かびます。「小春」の置き方が若干乱暴な気もしますが、「全部食う」「結婚する」の勢いを活かすにはこれが正解なのかも。森迫さんの句も自分には絶対作れない句だなあ。夏井先生からも指摘されていたとおり、確かに季語は動くかもしれません。「寒鴉」は外のイメージが強いですし、「冷めゆく」と近い感じもしますしね。それでも「納税期」という着地の仕方は凄い。読み手にいろいろな想像を働かせます。
決勝
決勝戦のお題は「冬の夜空」。審査員は、準決勝で敗退した梅沢さんと的場さんを加えた9名となりました。
中田喜子 vs 横尾渉
天狼や心の棘を消し去りて
中田喜子(名人10段)
六人の本音奄美の冬銀河横尾渉(永世名人)
結果は、中田さん1票(梅沢)、横尾さん8票(高野・神野・西村・犬山・森迫・ジュニア・蓮見・的場)で、横尾さんの勝利。横尾さんが実体験を詠んできたのに対し、中田さんの句はあまりに心象的すぎましたね。また、中田さんは最初「トゲトゲした気持ちが天狼を見て穏やかになる」と言っていましたが、横尾さんからの「天狼の強さは温もりじゃない」という指摘に対し「イライラを狼が沈めてくれる」と反論していて、句の軸がぶれている感じがしました。そもそも温もりを詠みたいなら「消し去る」という動詞の選択もいかがなものかと。結果、大差がつくのも無理はないと感じました。
おわりに
トーナメント形式という関係上、参加者数が普段のタイトル戦よりも少なめなのでどうかなと思っていたのですが、これはこれで見応えがあって楽しめました。この形式だと3句作らないといけないので、参加される方にとっては大変かもしれませんが、その分真の実力が試されている感があって良かったと思います。安定感のある横尾さんが優勝したのも納得の結果でした。
また、夏井先生以外の先生が審査員として参加されるのは新鮮で面白いですし、こういう見方・読み方もあるんだなと勉強になります。
最後に、出演者・スタッフの皆様お疲れ様でした。季節ごとのタイトル戦に加えて、「俳句グランドチャンピオントーナメント」も定期的に開催してもらえると嬉しいです。