情が移れば、それだけ辛さは増す。
 優しい女が悲しまないわけもなく。
 名前を付けるのは正直、反対だった。


「きっと、本当の名前があるだろう……まだ小さいから覚えはしないとしても、記憶に残れば本人も混乱するぞ」

「そうでしょうか…」

「俺はそう思うがな……それに名前って、誰が考えんだよ」

「隊長とあたししか居ませんよぅ」


 何で俺だ。


「お前が辛くねぇってんなら、考えて付けてやれば良い。俺を巻き込むなよ」

「だって、この子、隊長とあたしにソックリなんですもの」


 松本が俺にまでそう言うとは思わなかった。
 ソックリは言い過ぎだ、が、似てんだよなぁ。
 色が、確かに俺と松本の子なら、こうなる可能性もあんだろうとは思うが。
 実際には二人の子供なわけじゃない。
 似てるからって、関係ないよな?


「そうは思えんがな…つかな、大鋸ですら足取りが全く掴めてないらしい。こいつが門の前に置かれてた時、他に何か持ってたもんはねーのか?」


 ガキの名前付けるような重要な事を、任されたくはない。
 もしも親が見つからなかったら。
 この子供は、その名前を背負って生きていく。
 そんな責任を負う気はなかった。
 早く親を見つけるしかない。

 よく考えたら俺は、添えられてた置き手紙も読んでねーな。


「特には…あの手紙は、今は鷹宮が保管してますが…」

「ちょっと一度見てこよう。見落としがないとも限らんしな」

「あ、あたしも一緒に」

「や、お前はそんガキ見てろ。名前もお前が考えてやれ」

「隊長、逃げるなんてズルイですよ~」

「逃げてねーよ。名前を付けてやりたいと思ってんのはお前だろ?」

「そうですけど……」


 何で不満気だ。


「この子、他人な気がしないんですよね……」


 いやいや、思いっきり他人だろ。
 可愛いとは俺も思うが。
 内心では無茶苦茶可愛いなとは思ってるが。
 自分の子じゃないのは確かだし、松本の子じゃないのも確かだ。


「隊長は、可愛いとは思われませんか?」

「……それとこれとは別問題だろ?お前の子として育てるわけにはいかねんだから」

「あたし、それでも良いかなって…」


 優しすぎる女ってのは、ぶったまげる発言をするよな。
 子供好きなのはここ数日間で良く解ってるが。
 簡単に決めて良い問題なわけがない。

 しかも松本は未婚で。
 いきなり子持ちになって、この先どうなるかなんて一切考えてない。
 今、この子供が可愛いから、出来るだけの事をしたい。
 それだけの感情で生きてる。


「お前、アホか」

「あ、酷いです、たいちょ…だって、この子の親御さん、見つかる可能性低そうですよ…置いて行かれた時の状況や様子でも、とても大切に今まで育てられてたのは解りますもん。なのに置いて行くなんて……よっぽど事情があったからだと思います」


 それは確かだ。
 あの大鋸が調べても全く痕跡が掴めない。
 霊圧が低いどころか、意外と高いってのも気になる。
 こんなに小さい内から、はっきりと秘めた霊圧が感知出来る。
 成長すれば、恐らく死神になる力を有してるだろう。
 って事は、貴族か霊圧の高い死神の子供だ。

 置いて行かれた時に着ていた服も、包まれてた布も。
 それなりに高い上等な布で作られた物だった。
 今、松本に頼まれて、俺が買い揃えた服や布と同じくらいの品。
 となると、やっぱ貴族か、隊長レベルの奴の子供って事になる。

 しかも一瞬の隙を計ったように置いて行ったのは。
 すぐに見つけて貰えると、解ってたんだろうとしか思えない。
 なのに外気から守るように、幾重にも布に柔らかく包まれていた。
 愛情深い親なのだろうとは、他人でも解る。

 なのに一切、情報がない。
 ンな事が有り得るだろうかと考えれば、まず有り得ないのに。
 大鋸でも解らないなら。
 恐らく、だが…見つからないかも知れない。


「そしたらこの子、どうなっちゃうんですか……」


 俺に聞くなよ。
 俺のガキじゃねーし、俺が置いてったわけでもない。
 なのに責められてるような気分になんだよな。
 気のせいかも知れんが。


「出会えたのも縁ですもの。このまま親御さんが見つからないようなら、あたしが引き取ります」

「お前なぁ……」


 経験がないとこいつも自分で言ってた。
 マジでこの先の事を考えてねぇな…。

 感情で生きるからな、男よりも女は。
 損得じゃねーしな、特に松本の思考は。
 本気だから厄介だ。


「この先、いつか嫁ぎたいって男が現れた時に、赤の他人の子連れでどーすんだよ。あんまそれでも良いって奇特な男は居ないぞ」

「どこかに居ますよ」


 暢気だな……。


「好きな男が居るんだろ?そいつが子連れだったらイヤだって言う野郎だったらお前が困るんだぞ」

「……言いそうにない方ですけどね…どちらにしても、その方とはどうにもなりませんし」

「は?」

「あたしが勝手に好きなだけで、伝えようとも伝えたいとも思ってませんから」


 随分と衝撃的な話を聞いてる。
 松本がここまで口に出して話すとも思ってなかった。
 好きな男が居るって事すら、先日知ったばっかりだ。
 伝えさえすれば、松本ならどうにでもなるだろうに、妙に後ろ向きだな。


「ガキの事は置いておいて、お前、なんでそいつに伝えようとしねんだよ」

「んー…迷惑でしょうから」

「お前からだったらンなわけねーだろ。子持ちだったらどうだかは知らんがな」

「そうは行かない相手ですから、いつかは諦められますよ。それに、いつかはそれでも良いって方と出会えるかも知れませんし」


 後ろ向きかと思えば、変なとこは前向きな思考だな。
 松本らしいっちゃらしいのか。


「相手が妻帯者ってわけでもねんだろ?」

「ええ…まぁ」

「まさかとは思うが市丸じゃねーだろうな」

「まさかっ」


 思いっきりの否定を聞いて、ちょっと安心した。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続

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 ここまで晒しておいて何なんですけど、ベースとしては隊長が隊長になってから百年くらい経ってるぐらいの頃のお話になってます。

 いや、今からでも変えれるんですけど、勿論ながら三席だった話は何の事~?な設定です。笑

 あー、どうしようかな…とこの先の展開には全く関係して来ないんですけど、でも計算がややこしくなってくる(?)ので、二十年くらいでも良いんですけどね…うーむ。

 勝手に一人で悩んでます。

 百年もなー、別に良いっちゃあ良いんですが、よう秘めるわ、って。笑

 やっぱり二十年~五十年くらいにしといた方が良いのかも、いや、二十年も充分秘め過ぎですけどね。

 まぁ原作がん無視なのは間違いありません。一体何の話なんだろうって、書いてる本人が一番強く思っています。