仕事しろと言えば言ったで、ぶーぶー文句言うんだよな。
 おまけに今度は優しくないとまでのたまう。


「優しくすりゃあ優し過ぎると文句言いやがるくせに、お前……」

「我侭ですから」

「自分で言うな」


 それでも、今は痛みも完全にないようで。
 すっかりいつもの松本だ。

 四番隊に診て貰うまでは、また痛み出すだろうがな。


「休まねーのは構わんが、痛むんだったらすぐ言えよ。痛みだけは取ってやる」

「あんまり言いたくないかも…」


 あの治療方法は恥ずかしいと言いやがる。
 抑え付けて馬乗りになってたからな。
 
 
「抵抗すっからだろ。しねーなら、普通に手を翳すだけで済むんだよ」

「口の中はそうは行かないじゃないですか」

「場所が場所なんだ、仕方ねーだろが」


 まだぶーぶー言うか。
 大概、しつけーな。


「早く四番隊に診て貰わなきゃ」

「まぁ、すぐには無理そうだな」


 瀕死ならまだしも。
 歯の治療となると、後回しにされるんだろう。
 護廷の副官は、隊首の次の地位だ。

 それでも予約待ちで処方もなく帰されるんだから。
 四番隊の混乱振りが手に取るように解る。
 すぐには落ち着かないだろう。


「いっその事、隊長に殴って貰って歯を抜いちゃいましょうか?」

「ンな事出来るか、アホ」


 痛みに辛そうな姿さえ見たくねーのに。
 幾ら解決の為とは言え、殴れるか。
 しかも女の顔を。


「ですよねぇ…困ったなぁ。あ、隊長、手を洗われて下さいね」

「は?」

「あたしの口の中に指入れちゃってるんですから、汚いじゃないですか」

「自分で自分を汚いと言えるお前がすげーよ。別に気にしねーし」


 ンな事、思いもしなかった。


「ダメでしょ。ちゃんと洗ってください」

「妙なとこに拘る奴だな……」

「申し訳なさで一杯ですよ。ささ、洗って、洗って」


 仕事しようとやっと席に着いたってのに。
 洗えと半ば強制的だ。

 松本の頭を叩く時は、確かに気を遣って逆の手にしたが。
 それは別に、汚いと思ってたわけでもない。
 松本の唾液で濡れてたから、あの髪に触れるのはどうかなと思っただけだ。
 今は乾いてるし、気にもしてなかった。


「ほら、たいちょっ、早く!」

「何なんだよ、お前は……」


 仕方なしに給湯室に向かって。
 言われるままに一応手は洗った。
 うむ、と偉そうに松本は満足気に頷いて。
 俺へと手を拭くように手ぬぐいを渡す。


「気にしねーってのに」

「あたしが気にします」

「他の奴には黙っといてやるって」

「そんな問題じゃありまっせん…っ…」


 力強く断言なんかするからだ。
 言わんこっちゃない。
 恐らく、強く舌が当たって、また切ったんだろう。

 急に顔を顰めて、また蹲った。


「お前な、馬鹿だろ?」

「うー…」


 痛みはなくなっても、根本的には治ってないって事を。
 まだ理解してねーようだ。
 四番隊にはまだ頼れないってのに。
 呆れ果てた。


「ほら、見せてみろ」

「い・やっ!」


 また同じやり取りすんのもウンザリするなぁ。
 蹲るほど痛むってよっぽどだぞ。


「口ん中に指突っ込まれるのがンなにイヤかよ?俺なんだし良いだろが」


 何が良いのかは俺も知らんが。
 長い付き合いだ。
 主従としても護廷一仲が良いのは認める。


「ちょっ、と、恥ずかしい…」


 痛みに顔を顰めながらも。
 もたついた音で赤くなって言われると。
 俺も恥ずかしくはなって来る。
 
 仲の良い主従でも、まぁ、しないだろうしな。


「仕方ねーだろ。治してやれんのは今んとこ俺だけだ。四番隊に診て貰えるまで我慢する気か?」


 治るまでは飯も食えんし、きっと眠れない。
 蹲るほどだ。
 どっちにしろ、飯食えば痛みは倍増しそうだしな。


「指がヤなのか?」


 コクンと頷いた。
 さっきも申し訳ないと言ってたしな。
 妖艶で豪快だが、男の姿も松本には見た事がない。
 見目が華やかなだけで、奥手なのも見てりゃ解る。

 そんな松本が、いきなり口ん中に指突っ込まれれば。
 そりゃ恥ずかしいわな。
 つって、どうするよ?







 続
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 延々とこんな状態が続くお話です。ふふ。