実直そうな落ち着いた態度。
 そして柔らかい物腰。
 鷹宮のそんな様子に。
 ふふっと乱菊は声に出して微笑んだが。
 冬獅郎の言葉には疑問を感じ。
 同時に首を傾げた。


「隊長、シュンって……松本?」

「……会いたがってたろ、お前がな。これも迷ったが、都合が合うなら連れて来る気だった」

「それって……」

「そうだな」


 二人の子供に、会わせてくれる気だったのだと。
 それは今の乱菊が望んでいるからだと。
 言ってくれた冬獅郎の言葉が、乱菊には嬉しかった。
 結局、会えないのは残念でも。


「松本って……日番谷じゃないの?」

「ま、な。親の七光りを嫌うって言ったろ?日番谷姓より、松本姓の方が良いらしい。
俺がお前を結婚してからも松本と呼んでたからな、本人は絶対そうは言わないが、それが本当の理由だろ」


 死神だった乱菊が逝ってから。
 名乗る姓を変えたと、冬獅郎は僅かに照れたように。
 肩を竦める。

 冬獅郎が「松本」と呼べる存在になる為。
 親子でありながら自ら変えたのだと。
 乱菊にはすぐに気付けた。


「お二人によく似ていらっしゃる、大変お優しい方でございますから」


 そう教えてくれたのは。
 燃えるように綺麗な赤い髪を持つ。
 透き通った琥珀色の瞳をした、背の高い青年だった。


「えっと…」

「五席の神楽だ。あのオッサンの異変に一番に気付いた」


 優秀だろ、と。
 ニヤリと自らの事以上に自慢気に。
 口の端を上げ。
 全員、優秀だがと伝えるのを忘れず。
 冬獅郎は一人一人を乱菊に紹介してくれた。

 それぞれがとても真面目そうで。
 そうして温かく、柔らかい眼差しで乱菊を見ている。
 冬獅郎の紹介に合わせて。
 一人一人が、深く乱菊へと頭を下げた。

 顔で選んだのかしらと口には出さなくとも。
 乱菊が思ってしまうほど。
 全員が目を引く顔立ちをしていた。

 それは整っていると言うよりも、内面の輝きが。
 顔に表れていると感じる。
 全員、とても綺麗だと、乱菊は思った。

 ただ、おかしかったのが。
 どうにも、あまり。
 カラオケと言う場には全員が相応しくなく。
 堅物、実直と。
 会話を深く交わしたわけではなくとも。
 与えられる印象は、真面目さが強く。
 故に不思議だと感じる。
 それが、おかしかった。


「堅物そうなのばっかだろ?こんなだが、カラオケ好きだぞ、こいつら。お前の影響でな」

「隊長は?」

「勿論嫌いじゃない。聞く分にはな」


 歌うのは苦手だと。
 眉間に深く皺が寄り。
 あららと乱菊が笑う。

 それでも嫌いではないと。
 ハッキリと言う冬獅郎は。
 諦めが早いのか。
 適応能力が高いのか。
 本当に嫌ってはいないようだった。

 本来なら近寄りもしない場所だろうと。
 乱菊には解るのに。
 本やリモコンを差し出す部下達に。
 断りながらも、冬獅郎は。
 柔らかい雰囲気を纏っていた。


「聞いとけ。とにかく全員上手ぇぞ」


 そしてお前も歌えと。
 冬獅郎は場所がどこでも偉そうだった。

 会話を交わす二人を見詰め。
 時折、冬獅郎の部下達は何かに耐えるように。

 顔を逸らしたり、俯いたり。
 グッと眉間に皺を寄せたりしている。
 最初はどうしてと不思議に感じた乱菊だったが。
 やがてすぐに気付いた。

 全員が涙を。
 堪えている事に。
 今にも泣きそうに、皆が目元を赤くしている。
 けれど泣かない。
 決して。

 冬獅郎の言葉通り。
 全員が本当にプロ以上に上手だった。
 アイドルの歌からロック、演歌まで。
 幅広く歌いこなし。

 なのに涙を堪えている姿に。
 乱菊は胸を温められる。

 乱菊が歌った時。
 誰もが何度も何度も。
 熊のように大きな身体をした、大鋸と紹介された部下も。
 身体を小さく震わせて。
 涙を堪えていた姿を見た。

 不思議に感じながらも乱菊は疑問を口にせず。
 ドリンクバーに行く時など、部屋から出ようとすれば。
 冬獅郎が直ぐに連れ立とうとするが。
 一人で大丈夫と断ると、自然に冬獅郎の部下達は。
 乱菊を守るように必ず誰かが部屋から出て来る。

 誰がと話し合う素振りすらなく。
 当たり前の如く、守ってくれる姿。
 余りの自然さに不自然さを感じ。
 乱菊は困ったように微笑むしか出来なかったが。
 柔らかくも優しい会話を交わす事は何度もあっても。
 疑問に感じた事は一切、尋ねなかった。

 きっとこれが昔、本当に当たり前だったのだろうと。
 思えるから、聞かなかった。

 過去の乱菊は彼らの上司で。
 恐らく、彼らより強かったに違いない。

 その記憶はない乱菊でも。
 決して一人にはさせようとしない姿に。
 大切にされていた、想われていた嘗てを偲ぶ。
 何も憶えてはいなくても。

 ただ一つ。
 冬獅郎から離れると。
 ズキリと頭が痛んだ。

 胸の痛みより強くない痛みに。
 気のせいと。
 きっと気持ちが、懐かしさに。
 着いて行けてないせいだと。
 乱菊は思い込み。
 
 楽しいと心から感じられる時間を。
 大切に過ごした。










 続
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 お待たせしております。orz
 えち入れたーい(え?どこで?)と思い直して、うーむうーむと考え込んでましたが、諦めました。←おい。
 二人の子を松本姓にした話は、最後に出す予定でしたが、前倒しで持ってきました(^^;
 えへへw