「………」


 緊張していた。
 互いに。
 冬獅郎は特に。





 いつまでも通用口で、抱き合ってはいられない。
 冬獅郎が乱菊の告白に、「俺も」と。
 応えようとした矢先。
 響くヒールの足音が聞こえ。
 慌てて二人、駅ビルから出て来た。
 手だけは、しっかり繋いで。

 自然とそのまま、冬獅郎は乱菊を送る。
 今までの誤解を掘り下げて一つ一つ。
 解しながら二人で、乱菊の家までの道を歩いた。

 そんなに遠くもない距離。
 手を繋いで、互いに胸が一杯で。
 乱菊の家に着けば、繋いだ手は。
 離さなくてはならない。

 なのに、話しながら。
 柔らかな会話を二人交わしながら。
 繋いだ手は一本一本の指先も絡み合い。
 歩いた距離に合わせて深く繋がって行く。


「あのね、日番谷くん…」


 キュっと、繋いだ指先に乱菊の力が篭る。


「何?」


 冬獅郎も応え、キュっと力を篭めた。


「試合ね、本当に大丈夫になったの?明日は行くの?」


 冬獅郎が部活に真剣に打ち込んでいる事を。
 乱菊は知っていて。
 心配気に聞いてくる。

 部活どころではなかった。
 試合どころではなかったと。
 冬獅郎は肩を竦めるしかない。
 しかも苦笑した。


「先輩達や同級の奴ら…つーか後輩の奴らもなんだけど、何か勘づいててさ」

「何を?」

「俺が松本さんを追っ掛けてんのを」

「追っ掛けってって、やだっ、嬉しいっ」


 乱菊は照れるけれど。
 やだと言いながら嬉しいのかと。
 冬獅郎の頬が緩む。
 苦笑はますます深まった。


「でも、何で?日番谷くんが相談したとか?」

「してねーよ?誰にも言ってない。だけど知ってて、そう言えばバイトの事も知ってるような口ぶりだったな……」


 何でだろうかと、冬獅郎も今更ながら疑問に思う。
 部活仲間はちょっと変わった面子が多く。
 すっかり慣れていた冬獅郎は。
 そんな奴らなのだと納得していたが。
 改めて考えてみると、やはり何故だと思う。


「サッカー部は……えーっと、神楽くんと宇治くんだ」


 乱菊とは一年生の時、同じクラスだった二人。


「同級なのはね。後、宿利、高部、須佐ってのも同級。知ってる?」

「知ってるも何も同じ中学だったから、たまに話すよ?でもサッカー部?あれ?」


 確か皆、剣道をしていなかったかと。
 乱菊が首を傾げた。


「一年の最初は剣道部だったけど、何か試合見て感動したとかで、全員今はサッカー部」

「知らなかった……クラス違うとたまにしか会わないから」

「教室の窓からいつも俺見てたのに?」


 乱菊への家への帰り道。
 いつの日にかまさかと聞いた真相は。
 本当にそうだった。

 乱菊はずっと窓から冬獅郎を見ていて。
 その姿を、冬獅郎も見ていただけの事。


「日番谷くんしか見えてないし……見てなかったから……」

「そっか…」


 柔らかな乱菊の言葉に。
 苦笑を止め、冬獅郎も素直に笑んだ。


「あ、じゃあ鷹宮さんや大鋸さん、竹添さんは知らないかな?」


 冬獅郎の先輩にあたる一歳年上の、サッカー部の要。


「知ってるよ?同じ中学の先輩だもん。スッゴく優しい先輩達だった」

「あ、そうなんだ」


 試しに冬獅郎が後輩の名前を出すと。
 驚いた事に全員が。
 乱菊と同じ中学からの進学だった。
 特にスタメンのメンバーと、控えの後輩は全員。
 それ以外にも部員は居るが。
 冬獅郎がいつも一緒に試合に出ている部員は。
 全員が乱菊と同じ中学出身者だった。


「すごい偶然だね。今度応援に行っても良い?」

「緊張しそ。良いとこ見せないとって力みそうかな…」

「日番谷くんが緊張?一番無縁そう」


 ふふっと乱菊は。
 華のように笑った。


「皆を一応知ってるし、今度絶対行くね!日程教えてね」

「…じゃ、楽しみにしてる。でもやっぱ不思議だよな……今日の試合もさ、いや、試合あんのは明日だけど、何とか勝つから、ここは気にしないで下さい!って力説でさ」

「下さいって事は後輩の子達が?」

「や、今日行ってたメンバー全員。俺さ、何でか知らないけど、先輩や同級からも敬語で話されるんだよな」

「先輩達からも?」

「そう」


 すっかり慣れてしまったけれど。
 小学生のクラブチームから。
 冬獅郎はずっとサッカーを続けて来た。
 県内ではそこそこに有名ではあったが。
 熱狂的な憧れの対象として。
 崇められていた事は高校に入ってから知った。

 崇拝に近い尊敬を篭めて。
 サッカー部員達は冬獅郎に接する。
 同級生は疎か、先輩達まで。

 異様だと思うし、申し訳なさも感じるが。
 一年以上経てば諦めに似た慣れが芽生える。
 小学生の頃からずっと冬獅郎は。
 サッカーではそれなりに県内で有名な選手だった。

 高校生になってからも。
 実力を認められ、純粋に憧れてくれる事は嬉しい。
 けれど、正しいとも思っていなければ。
 当然とも思わない。

 先輩達を冬獅郎も尊敬しているし。
 同級生の仲間は頼りにしていて。
 信頼し、認め合っている。
 後輩達にも、期待をして。
 先輩として教えれる事は惜しみ無く伝え。
 他の仲間達と大切に育てている。

 妙だとは思うけれど。
 仲間意識は最高に高く、仲も良い。
 良すぎるくらいだったが、乱菊の事を。
 話した事はない。

 やはり何故だろうかと、考え出すと不思議だった。


「んー……いろいろ不思議だね……」

「聞いてみるのが一番早いか……今日は荷物まで預かってくれてる。何でもお見通しって感じなんだよなぁ」

「日番谷くんのストーカーだから気付いちゃったとか…なーんて」

「いやいや、まさか。そんなら松本さんを見てたから気付いたって方が、しっくり来る」

「それこそないよぉ!そもそもストーカーなわけないよね。
皆さん優しくて真面目で良い人だし、日番谷くんの大切な仲間に、そんな事言っちゃダメだね。ごめんなさい」

「キモがって言ってるんじゃないの解るから、謝んなくて大丈夫」


 柔らかい乱菊の言葉には、悪意などなく。
 冬獅郎は何とも思いはしないのに。
 冗談でもダメだよねと反省して。
 素直に謝る乱菊が、やはり冬獅郎には好ましい。
 ああ…好きだなと実感する瞬間だった。

 しかし、どちらの考えも。
 実はある意味当たっている事を。
 知らない二人。

 まさかと笑い合い。
 話しは冬獅郎の身軽な様子に移った。


「そっか、泊まりがけの試合なんだから、荷物があるはずなんだよね。まだお家には戻ってなかったんだね」

「思い立って、背中押されて、高速バス飛び乗ってバイト終わる時間ギリギリだったから。
荷物預かって貰えて本当に助かったんだ。結構走ったから」


 頭の中は乱菊の事ばかりで。
 とにかく間に合うようにと。
 バスに乗っている時以外は、常に全力で走った。
 遠征は慣れていて、荷物はさほど多くなくとも。
 走るともなれば多少の障害にはなる。
 携帯と財布だけ持って来たと笑う冬獅郎に。
 乱菊は嬉しいと微笑んだ。


「ありがとう、日番谷くん」

「ありがとうって…何で?」

「日番谷くんが行動してくれてなかったら、あたしはまだずっと誤解したままで、絶対に動けてなかったもの。日番谷くんのお陰……」


 だから、ありがとう…と。
 乱菊は綺麗な笑みを浮かべ。
 指先をより一層、冬獅郎に絡ませた。
 勿論、冬獅郎からも。


「それなら俺こそだ。ありがと、松本さん」


 戸惑い、躊躇いながらも。
 吹っ切ろうとしていても。
 決して冬獅郎の言葉を無視せずに。
 腕を掴んだ冬獅郎の手を振り払い。
 逃げる事も出来たのに。
 乱菊は話しを聞いてくれた。
 互いに感謝し合っている。

 二人の間を流れるものは。
 想いに満ちた、優しく柔らかい感情ばかりで。
 指先で繋がり、感情で繋がり、交わす会話に。
 想いの繋がりも深くなる。
 乱菊の家に近付く毎に。
 離れ難くなって行った。


「あの、ね…日番谷くん」

「うん?」

「あたしと同じように、思ってくれてるなら……」

「うん、思ってるよ、思いっきり」

「ならね、それならね……うち、今日から誰も居ないの……」


 深く絡み合った指先に熱が篭って行く。
 それは冬獅郎からも、乱菊からも。


「……それって……」

「迷惑じゃなかったら……」


 冬獅郎が迷惑するわけもなく。
 互いにその先を予測し、願っていたかと言えば。
 そこまでは考えていなかった。
 ただ、一緒に居たい、もっと。
 それが二人の正直な気持ち。

 ただ、本当に全く何も考えず。
 乱菊は誘い、冬獅郎は頷いたかと言えば。
 それはもう嘘になる。


 頷いた冬獅郎を、乱菊は自宅に招いた。
 そして二人。
 予測不可能だったほどに。
 激しく緊張する事になる。











 続
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 またもやご無沙汰で申し訳ありません。
 生きております。何とか。orz

 んまー、いろいろありまして、日記で一部をちみっと書きましたが。。。

 大変お待たせしました(>_<)
 放置プレイで大変失礼を致しました。orz
 もうこの先は最終話まで、お待たせ致しません!