「でも、隊長の負担を軽くする事も副隊長さんのお仕事だと思います。
乱菊さんが優秀で、仕事を終わらせたとしても隊長さんのお仕事はまだあるでしょう?
お手伝いするべきじゃないですか?」

「それをお前が言うのか……たいしたもんだ」

「お手伝いしたいのは山々なんだけどねぇ……隊長が処理される書類は機密事項も多いし、
隊長でなければ捌けない書類が大半だから、あたしでは力不足なのよ」


 う…と雛森が詰まる。
 実際、雛森もそうだからだった。


「だから、なるべく自分の仕事は隊長のご負担にならないように、早め早めにやってるんだけどね」


 またもや、う…と雛森が詰まる。
 それが出来ていない自身に、やっと気付いた様子だった。

 
「で、でも、私も一杯一杯で……」

「そうよね。雛森も頑張ってるもの…大変よね」


 それは乱菊の本心からの言葉で。
 出来た女だなと、冬獅郎は思いながら。
 雛森の書類をやっつけていた。

 先ほどまでは凄まじい威圧感で雛森を圧倒していたが。
 今は先輩隊士として、いつものように雛森に接している。

 切り替えが早いのも、乱菊の特徴の一つで。
 ネチネチグチグチと不満を引き摺る事もなかった。


「雛森は雛森で、それなりに懸命なんだろうけどな……言い訳ばっかする根本を見直さねぇと、いつか痛い目を見るぞ」

「シ……日番谷隊長ったら酷い」

「酷くない。お前自身はどーでも良いが、残念な事に幼馴染には違いない。
不本意だが出身が同じお前のせいで、俺も自分勝手だと思われるのは正直我慢ならん」

「ちょっと、残念って何?」

「言葉の通りだが、俺の為に特別講師してやろう……松本、悪いが大鋸の庭園から、これだけ持って来させてくれ」


 サラサラと筆を走らせて、書いたばかりのメモを。
 冬獅郎は乱菊に渡す。


「これを全部ご用意すれば良いですか?」

「ああ、頼む。そん間にこれを終わらせておく」

「はい」


 突然の行動ではあっても、乱菊は異論を唱えず。
 すぐに執務室から出て行った。


「講師って何?」

「普段なら金取りてぇとこだがな、俺より持ってない奴から貰うのも癪だ。タダで教えてやる」

「えっらそうに。私、そんなに暇じゃないんだけど」

「どうせこの書類持ってかねぇと、隊舎に戻れねんだろうがっ」

「そうだけど……ちゃっちゃと終わらせてよね」

「もう終わるが……ぶっ叩いてやりてぇと毎回思うのは、俺のせいじゃねぇよな」

「カルシウム不足なんじゃないの?ちゃんと小魚とか食べないとダメだよ」

「お前に会う前はそうする。毎回言うが、必ず連絡してから来いっ」

「そんなにシロちゃんにに会う用事ないもの」

「俺はもっとねーよっっ」


 乱菊がいなくなった途端に呼び名は戻り。
 血管が切れそうだと、再び冬獅郎が頭を抱えた時。
 乱菊が素早く戻って来る。


「お待たせしました、隊長」

「いや、早かったな」

「大鋸に頼んだらすぐでした。
えーっと、大きめな同じ形のコップを四つ、それぞれに大きな石、小さな石、砂、水を、
それぞれ一杯入れて来ました」

「ああ、それで良い」


 乱菊が抱えて帰って来た荷物を。
 隊首席から立ち上がった冬獅郎は受け取り。

 テーブルの上に、徐にその全てを並べた。

 大きな石がぎゅうぎゅうに入ったコップを、乱菊と雛森の二人に見せる。


「このコップの容量は、もう一杯だと思うか?」


 そう問い掛ける。
 乱菊と雛森、同時の頷き。

 次に小石の入ったコップを手に取り。
 大き目な石が一杯に詰まったコップの隙間に。
 その小石を詰めて行く。

 時折コップを揺すりながら入れて行くと。
 一杯だと思われたコップの石の隙間に。
 小さな石達が収まって行った。

 用意された小石が全部入ったわけではなかったが。
 一杯になったと思われていたコップには。
 小石が幾つも入っている。


「これで一杯になったと思うか?」


 意図が解らずも。
 やや首を傾げながらも、乱菊も雛森も頷く。

 次に砂の入ったコップを手に取り。
 サラサラと、大きな石と小石の入ったコップに注ぐ。
 やはり全ては入らなかったが、隙間に砂は埋まって行った。


「これで一杯か?」


 今度は乱菊も雛森も頷かなかった。
 冬獅郎はその姿に頷いて。
 今度は水の入ったコップを手に取る。

 上からゆっくりと、隙間なく砂で埋まっているコップに注ぐ。
 水はコプコプと音を立て、コップの中に入って行った。


「これを見て、どう思う?」


 乱菊はじっとコップを見つめ。
 雛森は意味が解らないと、やや膨れた顔で。
 冬獅郎を見ていた。


「雛森、どう思う?」


 しばらくの沈黙の後。
 更に膨れた雛森がやっと答えた。


「……そんなの、私への嫌味じゃない。
一杯一杯だって思ってても、入れ方を工夫すればまだ入るって事でしょ。
工夫が足りないから、私が仕事を出来ないって言いたいんでしょ」

「違う」


 その答えが一般的だが、違うと。
 冬獅郎は乱菊を見遣る。


「松本、お前はどう思う?」

「……大きな石は、最初に入れておかないと、後からは入りません」

「そうだ」


 満足気に冬獅郎は頷き。
 乱菊に向けて、口角を上げて見せた。


「どう言う事?」


 一人解らないとますます膨れる雛森に、冬獅郎は口を開いた。


「根本をしっかり知れって話だよ。そして持てってな。
重要な、自分にとって一番大切で大きなモノは何なのか、知ってないと後で気付いてももう入らない。
それが最初に入れた大きな石だ。手遅れになって後悔する前に、自分にとっての土台となるモノを
しっかり根底に持ってろ。他の細々したもんは後でどうにでも詰め込める」

「意味が解らないんだけど……」


 やっぱりなと冬獅郎は肩を竦めた。








 続
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 妙な話ですみません。orz