執務室に主が戻ると。
 上機嫌な鼻歌が耳に届く。


「でかっ」


 十番隊の隊首は。
 奔放な副官に、免疫が出来ている。
 しかも甘い。
 よほどの事ではない限り、驚く事もない。

 が、さすがに驚いた。
 巨大な笹が床を支えに、執務室の窓から飛び出ている。


「限度っつーもんが、あんじゃねぇのか?」


 呆れ気味に呟けば。
 光り輝く笑顔が返る。


「朽木隊長が下さったんですよ。張り切って、三つ子達と頂きに行ったら一番乗りで」


 元気一杯に説明し、手柄のように嬉しそうで。
 思わず冬獅郎から苦笑が漏れる。


「執務室より修練場の方が、隊士達が見れて良いんじゃねぇの?」

「あたしもそう言ったんですが、隊長が許可下さるなら執務室にって、あの子達が」

「まった何か画策してやがんな……」


 冬獅郎の苦笑は深まり。
 笹に鈴なりに付いている色とりどりの短冊を見た。

 一枚手に取り、また一枚。
 しばらく、その繰り返し。


「………誰かが代表して一枚書けば良いんじゃねーのか?」


 隊士全員分あるのではと、確信出来る短冊の数。
 字体は全て異なるのに。
 書いている願い事は皆同じ。


「あの子達、それぞれの願い事ですから。一緒くたなんてダメですよ」


 乱菊は鼻歌を続けながら。
 明らかに短冊より少ない飾りを。
 場所に苦戦しながら飾り付けている。


「お前、読んだか?」

「いいえ。そんなに無理難題な願い事ですか?」


 鼻歌が止まった。


「や、お前次第だな」

「あら?そんなお願い事です?」


 にこやかな笑顔。
 上機嫌で。
 可愛い部下達の願いを、叶えてあげたい。
 叶いますように。

 そう心から願っている、副官の顔をしていた。


「で?お前のは?」

「あら、気にして下さるんですか?」

「一応、な」


 冬獅郎の言葉に、乱菊は微笑んで。
 すっと、天を指差した。


「欲張りだな…一番上かよ」

「最後になっちゃって、隊士達が隊長とあたしの短冊は取っておきの場所にって、
わざわざ残しといてくれたんですよ。てっぺんの方が、叶う気がしますからって」


 ふぅんと呟いて、冬獅郎は執務室の窓から顔を出す。
 ヒラリ、小さな風に揺れる短冊。


「俺に言えよ……」


 そう呟いた。


「何か仰いました?隊長も早く書いて下さいね」

「俺はいい。ンな書くような事ねぇし」


 乱菊の手が止まり、ジトリと隊首を見つめている。


「何だ、その捨てられた仔犬のような目は……」

「隊長、まだお若いんですから、そんな望みも願いもないような事、言わないで下さいよぅ」

「ンな事言ってねぇ。短冊に書いて願うような事は無いってだけだ」


 乱菊の首が右に大きく傾いだ。


「傾き過ぎだろ、危ねぇな……お前、七夕の話し、ちゃんと知ってんのか?」

「一年に一回会える恋人同士の彦星さんと織り姫さんが、会えた嬉しさで
願いを叶えてくれる日ですよね?」


 可愛い笑顔で自信タップリに説明され。
 冬獅郎から苦笑が零れる。


「また都合の良い解釈だな……誰に聞いたんだ?」

「誰にって、アレしかありませんよぅ、隊長」

「あー…アレ、な……」


 アレ、と互いの視線の先には一冊の雑誌。
 今まで尸魂界に七夕の風習はなかったのに。
 一つの特集記事が、今年は賑わいを齎した。

 話しの出所はしばらく現世に行っていた。
 某隊長格の盲愛する妹らしく。
 張り切って、広大な邸庭に自生していた笹を。
 全隊に提供するほど、後押しをしている冬獅郎の同僚。


「隊首会でも朽木が説明してたが、微妙に違う内容だったな……」


 間違った知識が事の発端なだけに。
 尸魂界全体が間違った賑わいを見せる。 

 ただ、特に訂正する気にもなれず。
 冬獅郎は取り合ってなかった。

 特集が組まれていると知っていても。
 読んでさえいなかった冬獅郎は。
 改めて記事に目を通して、その内容に驚いた。






 続
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 七夕話です。
 短めですが、よろしくお付き合い下さい^^