「総隊長」
「………」
「総隊長、宜しいでしょうか」
「…………」
「総隊長、あの……」
「…………」
「総隊長?」
何やってんのかしら、トド様は。
「隊長っ、神楽がさっきからずっと呼んでるじゃないですかっ、何で無視するんですかっ」
「無視なんてしてねぇよ」
「してるじゃないですか。ずぅぅぅぅぅっと呼んでましたよ、神楽はっ」
ねぇ、って。
五席の神楽を振り返ったら。
ホッとしたような、いつもの柔らかい笑みが零れた。
「隊長が怒られてるんじゃないかって、神楽も不安になるわよねぇ」
「はっ、あの……はい、不安です」
うーん、さすが神楽。
隊長の手前、言いづらい事でもちゃんと言うのよ。
にしても、隊長が席官達に素っ気無いなんて。
珍しい。
隊長はとても部下想いだ。
うちの子達は皆、真面目で素直で可愛いから。
隊長もすごく可愛がってる。
しかも、神楽は席官の中でも。
個人的に隊長と話の合う席官。
分け隔てなく隊長は部下に接するけど。
時折、神楽とだけは仕事を離れた話をよくしてる。
神楽も博識だから、話が合うんだと思う。
なのに今日は無視なんて。
どしちゃったんだろ。
「神楽が何か仕出かしましたか?」
考えられないけど。
「するわけねぇだろ。神楽だぞ。うちの隊士にンなの居ないだろ」
「ならどうして返事してあげないんです」
「………総隊長って呼ぶからだよ」
相変わらず、トド様は殿様だわ。
そんな理由?
「仕方ないでしょっ。総隊長になっちゃったんですから。今までだって隊長は雲の上の人だったのに、
総隊長なんてそれこ宇宙の果てですよ。神楽達席官がそう呼ぶのも仕方ありませんよぉ」
「別に、今まで通りで良いだろ。なぁ神楽」
「はっ…ですが、他隊の手前もございますので」
「んなの気にする必要ないだろ。十番隊は今まで通りで」
なりたくなかったのよねぇ、総隊長。
気の毒に。
全隊首の信任だったもんだから断れず。
前任の山本総隊長は、隠居するって言い出すし。
優秀ってのも、時に辛いものよねぇ。
「十番隊内ではそれでも宜しいでしょうけど、外に出るとそうは参りませんよ?」
「まぁ、外ではな。こいつらが他隊のもんから文句言われても困るしな」
部下想いなのよねぇ。
それなら返事してあげたら良いのに。
妙なところで我侭なんだから。
「神楽、総隊長が良いと仰るんだし、これからも隊長と呼んだら良いわよ。
あんた達も本当は、その方が良いでしょ?」
「はいっ」
ぱぁっと、神楽の笑顔が明るくなった。
物静かで、落ち着いてて。
穏やかな神楽だけど、ここまで満面の笑みは。
隊長とあたしが結婚するって報告に行った時以来かも。
嬉しそうに、隊長に「隊長」って呼んで。
「おう」って返事を貰って、また嬉しそうだった。
用件が済んで神楽は丁寧に挨拶をして。
事務室へと戻って行った。
去り際に隊長が、皆にも伝えておけって言ったら。
また明るく「はいっ」って。
小気味良い挨拶と笑顔。
きっと、他の子達も喜ぶだろう。
「十番隊の隊首が長いですから、なかなか慣れませんね」
「長いっつっても、俺ぁ隊長達の中では一番任期が短いがな」
「でも、あたし達には隊長が、ずっとただ一人の隊長ですもの」
ずっと隊首が不在だった十番隊。
他の隊長の下に居た隊士が極端に少ない隊。
「今もそうだろ」
「ですね」
隊長は隊長のまま。
肩書きが一つ増えても。
ずっと。
「まぁ、呼び方が変わってしまう寂しさって、あたしにも解りますよ」
「ああ……お前はそうだよな」
結婚したと同時に、日番谷姓になってしまったから。
隊長は仕事中は松本姓を使って良いと言ってくれたけど。
そんなのうちの席官達が、許してくれるはずがない。
日番谷副隊長。
日番谷副隊長と。
嬉しそうに呼ばれたら。
抵抗も出来ない。
あたし、知らなくて。
あの子達が隊長とあたしをくっ付けようと。
長年必死だった事に。
すっごく、すっごく、慕ってくれて。
いつだって尊敬の念の篭った心で。
全身全霊を懸けて忠誠を誓ってくれる。
真面目で、律儀で、堅物揃いで。
仕事中の隊長の性格が、そのまま反映されてるような。
十番隊の隊士達。
が、まさか隊長とあたしのフリークだったなんて。
誰が気付くってのよ。
隙あらば「総隊長夫人」と呼ぼうとするあの子達を。
頼むからそうとだけは呼ばないでって。
説得するの大変だったんだからっっ。
隊長だって。
「隊長に、「松本」って呼ばれなくなったのが、一番寂しいですね」
「俺は嬉しいけどな」
奥さんと、隊長はあたしを呼ぶようになった。
仕事をサボって怒鳴られる時は「乱菊」だ。
もう「松本」って、呼ばれる事はない。
それは嬉しさと同時に、一抹の寂しさも齎す。
隊長に「松本」って呼ばれるの、好きだったもの。
「たまになら松本って呼んでやろうか?」
ニヤリと、悪戯めいた翡翠はあたしを見てて。
ふるふると首を振った。
「これがですねぇ……隊長に奥さんって呼ばれるのも、嬉しいものなんですよ」
そう告げたら。
そうかって、隊長は柔らかく言って。
嬉しそうに笑った。
「なぁ、奥さん」
「はい?」
「お前だけは、ずっと隊長のままで変わらないな。他隊の奴らの前で以外、俺を総隊長って呼んだりしねぇもんな」
癖もあるんだけど。
だって、隊長は隊長だもの。
「変わらないって事はないですよ?」
「そうか?」
「たまに呼んでるじゃないですか。旦那様って」
キョトンと翡翠は丸まって。
ふわりと綺麗な弧を描く。
「そうだな……」
隊長はとても嬉しそうで。
たまにトド隊長って呼んでるけど……。
気にしてないみたいだから、今は黙っておこう。
「お前から隊長と呼ばれると安心する……旦那って言われるのも、特別で意味があるけどな、
お前の隊長って言葉は、俺だけの事だからな……格別だ」
「あたしにとって隊長は、隊長だけですもの。総隊長になられても、それはずっと変わりません」
「ずっとか?」
「ええ、ずっと」
あたしの言葉に、隊長は心底嬉しそうで。
すっと手が伸ばされた。
迷わずに受け取る。
引き寄せられて、隊首机の上に乗り上げる格好になった。
「お前が俺を、受け入れてくれて良かった……」
かなり強引だったけど。
「あの日、一つの賭けだった……断られたら死ぬかってくらいの覚悟だった。知ってたか?」
「そこまでとは思ってませんでした。だって隊長ったら、強引にあれよこれよって進めちゃうんですもの」
「時間かけりゃぁ、そんだけお前に考える余裕を与えるじゃねぇか。出来る時にものにしとかないとな」
「悪代官みたい」
トド悪代官…。
想像してしまって、笑いそうになったけど。
必死で堪える。
「何笑ってんだよ。またトドとか思ってんだろ」
「いいえぇ、とんでもなーい」
「怪しいな……」
訝しい目をしながらも、隊長は笑顔で。
あたしへと唇を寄せる。
「仕事中ですよ……」
「キスぐらいは良いんだろ?」
確かにそう言ったのはあたしだから。
逆らわずに、素直に唇を差し出した。
「大好きです、隊長……」
「俺も」
唇の熱に想いを乗せて。
それだけじゃ足りなくて。
音で伝えたら。
嬉しそうな笑みを見た。
終わらないと
2010.06.03
■□■□■□■
第二弾は神楽っちでした。笑
延々と続けられるこの小説。
そして何処ででも終わらせられる気がします。笑
意味のない小説なのに、書いていてとても楽しいです。
しかし、どんどこ長くなって行きます。
8頁超えるともう短編じゃ無理だろうと感じるこの頃です。orz
トド悪代官って良いな……自分で書いてて気に入ってます。笑
何処に行きたいんだろう、この小説……それは謎。orz
お付き合い頂きまして、ありがとうございました^^
追記
準備してた小説からアプしないとですね…パソが触れないので。orz
ちみちみ貯めていたのに…(笑)
リンクは後日となりますが、ご容赦下さい。
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