「ここが聖地か…」
結子は緊張している。
「餅子先生、ついに来ましたよ」
リュックを背負ったユカリ、瑞恵のスケッチブックを胸に抱いている。
結子と共に星田きいのマンションの入口前に立っていた。
昨夜、締め切りの一日前にようやく、ユカリは手描きのアナログな漫画原稿を仕上げP-BOY編集部宛てに郵送した。
そのまま新宿駅に向かい二人は大阪行きの夜行バスに乗った。
今時のバスは席と席の間にカーテンがあり、シートもゆったりと座りやすい。
ユカリはほっとしたのだろう、動き出してすぐにカーテンの向こうでいびきが聞こえ始めた。
しかし結子は眠れない。
目を閉じて寝ようとするのだがいつものように眠りの底にストンと落ちることができずにいる。
いいや、もう起きていることにしよう。
窓にはこっちを向いている疲れた自分の顔があった。
お姉ちゃん、これでいい?
今からユカリと聖地巡礼に行くけど、私間違ってない?
もちろん窓に映る結子が答えるわけがない。
今何時かな、そう思って自分のデジタル時計を見ると、2:22。
あ、ゾロ目だ。