【毎説】赤紙 第06話「奪われた息子」幻夢熊吉ワールド ©熊プ社刊
■お断り■
この小説には現代では不適切な風潮、セリフが沢山出て来ますが、実際過去にはそ
ういった風潮であったため、その時代の人の考えなどが再び出たと言う設定で制作
していますので、人権に反する事なので反論や講義などしたくなると思いますが、
フィクションの作品として解釈し、お読みいただければ幸いです。
会社(TOYBOY)に定岡の妻の定岡鞠子(47)が訪ねて来て…定岡が戦死した通知が届
いたと報告に来た。それを聞いた今村は足から崩れて倒れた…。
会社からは当たり障りのない事しか言えずで…
今村は屋上に上がり、定岡にあの時発した自分の言葉に悔し涙を浮かべた…。
そんな中、自分の意思での行動で敵の陣地(南朝鮮)の兵士を封じ込めた一般軍人と
なる渋谷正仁(50)は帰還して国やマスコミはヒーローの様にもてはやした。
そして、日本の勝利をアピールした。
第6話「奪われた息子」
ある空襲に合ったが被害が少なかったアパート5階に、ジャーナリストの小原光代
(36)が空襲でエレベーターは壊れているので階段で上がり、ある部屋の前に行き、
呼び出しベルを押した。
そこからドアを半開きで顔を出したのは坊主頭で無精ひげを生やした男で、小原が
こう切り出した。
「横沢耕太さんですね?」
「あんた誰?」
「突然すみません…私はフリージャーナリストの小原と言います。この写真のこっ
ちに写っている方は貴方ですよね?」
と言いながら傷だらけの色あせた写真をドア越しに見せると横沢は目を丸くした。
「こ、これをどこで?」
「詳しく話しますから中に入れて貰えませんか?」
すると横沢は黙ってドアを開け、小腹を中に入れた。
そのアパートの住人、横沢耕太(48)は汚れた白いランニングシャツに作業ズボン(や
はり裸足)姿で、小原はそれがまるで資料映像で見た戦時中の庶民の姿に見えた。
部屋の中は汚部屋の一歩手前な感じで、ぐうたらな生活をしている風に見えた。
気を改めて小原は横沢と対面に座り話を進めた。
「この写真…」
「どこで手に入れた?」
「南朝鮮に住むジャーナリストからの資料の中に入っていました。」
「幸三…」
「貴方の大事な人ですよね…?」
そんな折、今村は焼け野原になったせいで土地勘が崩れ…道を間違え…誰も寄り付か
なくなった焼け野原に入ってしまい、彷徨っていると…唯一原型をとどめている6階
ビルの屋上に1人の女が立っているのを見付けた。
「やばいな…あれは完全にやる気だ…」
と今にもそこから飛び降りそうだと感じ、そのビルに入り階段から屋上に上がった。
「やめろ!」
ギリギリでもなく…もはや間に合わないレベルでその女が飛び降りる瞬間、今村は気
合を入れその女の右手を握りひっぱり…ふたりは屋上の地面へ倒れ込んだ。
「何するのよ!やっと決心して飛び込もうとしたのに…」
「理由は何であれ、この世で中何で自分から死ぬ必要がある!?」
「私は…あの人がこの世にいなくなったら生きて行けないの!誰か知らないけど私の
事は放っておいて!」
「普通は、はいそうですかとはイカンやろ!」
その後…その女が落ち着いたので話を聞くとその女は岡安朋子(33)と言い、レズの彼
女の千層郁美(34)がおり、自分はレズではないがその千層が自分にとって人生で最高
の人で、数日前にその千層に赤紙が来たそうで、千層は女性だから…男性よりは力が
ないから使い勝手もないが同性愛者(で尋常でないので)…兵士として使うらしく…岡安
たちは役所にかけあったがまったくもって話しを聞いて貰えず…2人で一晩中泣いたが、
どうしようもなく…昨日…千層は兵士として自衛隊へと行ったそうだった…。
それを聞いた今村は
『相手はレズなのにそんなに悲しいか?…何だこの女を見たら汚く感じない…これは
同性愛…愛す相手がどうとかでなく…人間である以上…その人間が自分にとってどれ
だけ必要か?が大事なんだよな…』
と思った。そして正岡が言った
『俺はお前の良さを知っている…お前が全世界を敵に回しても俺はお前を…』
この言葉意味を今…本当に理解したと悟ったのだった…。
その後…岡安は
「あのまま死んだら楽だったかも知れないけど…郁美との幸せだった日々の思い出も
消えてしまうものね…」
と言い、今村は
「そうだ…思い出まで…存在まで消す事はない…」
と笑い返した。
そしてその夜、今村が帰宅すると、リビングの足元に国から届いた息子敬冶の軍服の
空き箱があり…その向こうで軍服を着ている敬冶の姿を見た…。
「敬冶…」
「あ…父さん…」
そして側にいた摩耶と澄子は
「国が決めた事は…逆らえない…そんな世界だっけね…この国は…」
「あの(戦争した)時代と同じに戻るなんて…」
と悔しがった…。そこに激しいノックが鳴り、澄子がドアを開けた…。
するとそこには1人の男性がいた。
「…土居くん?」
「敬冶はまだいるよね?」
「いるけど…」
そこに現れたのは敬冶の親友、土居道行(18)だった。
そして敬冶の家族がいるも関係なく凄い剣幕でこう言った。
「敬冶、そんなもん着るな!今すぐ普段の服に着替えろ!」
そして敬冶が言う通りに着替え終わると
「逃げよう敬冶!このまま戦場に死にに行く事はない!この国はまた間違った思考に
なってるんだ!僕もお前が必要だ!お前がゲイだって事は前から知ってたけど、お前
は本当に僕を純粋に必要としてくれた!こんな腐った国の為に死んでたまるか!おじ
さん、おばさん、妹さん…こんな事してごめんなさい!僕は敬冶を戦争には行かせま
せんから!」
と言って、
「今の僕にはこれしか出来ないです!」
と敬冶の手を引きそこを出た。
今村家族は何も出来ないままあっけらかんとしてしばらく立ち尽くした…。
そして今村は摩耶に
「あの子は大丈夫なのか?」
と聞くが摩耶は
「あの子はゲイではないみたいだし礼儀正しい良い子だけど…あそこまで敬冶を大事
に思ってくれてるとは…」
と言い、続いて澄子は
「上手く言えないけど、お兄ちゃんと土居さん…お似合いって気はしてた…。」
と言い、しばし沈黙したが、今村の
「このまま俺らが黙っていられるか!何か手助けをする方法があるはずだ!」
と言い、我に返った今村らは各自敬冶のスマートフォンに連絡するなどしたが、その
晩は何度かけても敬冶と連絡は取れなかった…。
つづく
■今回の登場人物
主人公・同性愛者をけなすクズ男/今村正勝(48)
ジャーナリスト/小原光代(36)
小原が訪ねた男/横沢耕太(48)
横沢に関係する男/幸三…
自殺しようとしていた女/岡安朋子(33)
岡安の彼女でレズ/千層郁美(34)
今村の長男/今村敬冶(18)
今村の妻/摩耶(45)
今村の長女/澄子(16)
敬冶の親友/土居道行(18)
イメージ主題歌
Kaneee, STUTS「Canvas」
🔧制作
©幻夢熊吉/熊田ベア吉
赤紙™制作委員会2024
©熊プ社刊
この物語はフィクションであり、リアル感を出して日本国の地名は出していますが、
登場人物・内容/設定は全て架空の物ですので、ご了承の上お読み(鑑賞)下さい。