kumachi0305のブログ

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超美形なのに、不器用でどこか可笑しな男女四人組の物語、「ケンメイ×カフェ」を連載しています。よろしくお願いします!

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vol. 3


時刻は二時。ランチは終了し、カフェの時間になる。大学生風の三人組、もっさりとした若い一人客、スーツを脱いだサラリーマンなど、種類はバラバラだが、やってくるのは男性客ばかり。注文をした後、彼らは一様にそわそわと、カウンターの方に目をやっている。ランチを食べ終えた美香は、指を折って彼らの数をカウントし始めた。
「9、10。ふえ~、全部で10人いるよ。何だっけ、かのんさんとかいう人を待って……?」
「前里花音。二十歳。大学二年生」
スマホにかかりっきりになっている優佳が、すばやく答えた。こちらは食事の手がすっかり止まっている。
「うそっ、何、その情報」
「教えてもらったシフト状況見てたら、スタッフ紹介のリンクがあって」
「えッ! 見せて見せて!」
リンク先は、KENMEI×caféの公式ホームページらしい。店長のカンタンなあいさつの後、店員四名ーー桜木要、久野セリ、泉幸弘、前里花音ーーのプロフィールとメッセージが掲載されている。ちなみに店長以外は、みな写真付きで、桜木要にいたっては「要さまフォトギャラリー」なるリンクまでついている。
むろん美香たちは「いやーん、気になる~!」と言いながら、それをダブルクリックしようとしたが、セリがテーブルを片付けるために隣の席にやって来たので、とっさに電源を切ってしまった。と、その時。
男性客たちが色めき立った。つられて美香たちも、彼らの視点の先を追う。カウンターの奥。華奢な店員が現れ、お疲れ様ですとセリに挨拶する。
やわらかそうな栗色の髪。うすい色の瞳。顔は小さく、肌は透き通るように白い。ハーフと見紛うほどの、完璧な美少女だ。
一人の客がさっと手を上げ、美少女はオーダーを取りに行った。終わった途端にまた別の客が、という具合に次々にオーダーが入り、その間に美香たちはその少女の名前をホームページで再確認していた。
「あの人だね。前里花音……さん」
「またまた超美形だわ……」
二人は思わずはあ~と息をついたが、優佳の方が小さく両手を打ち合わせて、
「思い出した。ね、ね、あの子、プリティンクルのあいるんに似てない?」
同意を求められた美香は、しかし顔の前で片手を振った。
「髪型だけならそっくりだけど。こっちの方がダントツ美人じゃない」
「んー、そうなんだけど……」
語尾をにごしながら、優佳の目は再度花音を追った。頭の高い位置でのツインテール、派手なピンクのフリルシュシュ。それらは天然系アイドルでおなじみの、あいるんのトレードマークそのものだ。
美少女はどんな髪型していてもカワイイからいいんだけど、何かもったいないというか……。
と、優佳が考えていたのは束の間だった。デザート食べよ!という元気な相方の声で、ささいな違和感など、すぐに吹っ飛んでしまった。

その日の夜。帰途についていた幸弘は、最寄り駅を通り過ぎ、駅前商店街のはずれに向かっていた。切れかかっている街灯のもと、間口の狭い飲み屋がある。幸弘はそこの引き戸をカラカラと開けた。
「……しゃい」
L字型のカウンターの向こうで、主人がぼそりと言葉を発した。いらっしゃいの末尾しか聞こえないのはいつものことなので、幸弘もかすかに頭を下げ、一卓しかないテーブル席に近づいた。
そこにはすでに先客がいた。セリと花音が向かい合っている。後ろ姿しか見えない花音は、何やら悪酔いしているようだ。
「……だあから、失礼しちゃうんですよう。聞いてますう」
「どうしたの」
セリの隣に座ると、幸弘はそっと聞いた。気のない様子で枝豆を食べていたセリは、「ホントこりないのよね」と投げやりに答えた。
「誰が」
「花音。お客さんに、一瞬あいるんかと思いましたよーって言われたんだって」
「ああ、またそれか」
幸弘もとたんに興味を失って、おしぼりを持ってきた主人に「ビール下さい」と頼んだ。花音の目が凄みを帯びる。
「ユキひどい! 聞いてよ!」
「だってその先聞かなくても分かるし。そんなこと言って失礼ですよね、とか。あいるんよりよっぽどきれいとか美人とか。髪型だけそっくりだーー」
幸弘が言い終える前に、花音は下唇をかんだまま、うううう~~とうなり声をあげた。華奢な美少女にあるまじき姿だが、セリや幸弘はもとより、主人もまったく動じず、突き出しを幸弘の前に置いた。
突き出しをつつく幸弘、枝豆の皮をぷっと吹き出すセリ。沈黙が続いたのち、こらえきれず花音が泣き出した。
「どいつもこいつもひどいんだから!何が髪型だけなんだよお~~!何が一瞬なんだよぅ~~!」
「だってねえ」
セリがため息をついた。
「あんたがあいるんになりたくてなりたくて、髪型マネしているなんて、誰が思うのよ。私たちぐらいだよ、信じてるの。言っちゃ悪いけど、あんたとあいるんじゃ月とすっぽんじゃない」
「わ、分かってるよっ、あいるんは」
と言ったところでくしゃみをした花音は、幸弘に片手を出した。慣れたもので、幸弘はかばんの中からポケットティッシュを取り出してその手に置いた。小さく礼を言うと、ちり紙を引き出して鼻をかむ。それからすねたようにつぶやいた。
「……あいるんは月だもん」
「あのね。わざとボケてる?」
「先輩にとって月なんだから、しょうがないじゃん……ちょっとトイレ」
ここで唐突に立ち上がった花音は、頭をふらふら揺らしながら、薄汚れた衝立の向こうに消えていった。二人はそちらを振り返りはしなかったが、代わりに互いの顔を見やって苦笑した。
「お疲れ様です」
「ユキこそ。お疲れさん」
「何か食べる? 真鯛がおすすめだって」
「じゃあ、刺身盛り合わせにしようかな」
「いいね。花音の好きなポテトフライも頼んどこ」
注文すると、セリは両肘をつき、手のひらにあごを乗せて言った。
「先輩って人もある意味すごいよね。あの花音にま~~ったく目がくらまないんだからさ」
うなずいた幸弘は、ふと入り口の方に目をやってセリに尋ねた。
「そういえば、要さんは?」
「さあね~。仕事あがった後そのままデートだったし、今日も来ないんじゃない。この飲み会提案したのは要なのに、あいつが一番出席率悪いんだから」
その時ちょうど、ポテトフライが運ばれてきて、花音も席に戻ってきたので、あらためて三人で乾杯した。
月に一回の四人だけの飲み会(といっても、要不在の三人会も少なくなかったが)は、こうして今日も地味にスタートしたのだった。