青森産ムール貝のパンナコッタ 栗山のかぼちゃ



ドレッセの美しい皿である。
が、佐藤シェフは、もちろん見た目を美しくするために、この料理を作っている訳ではない。

青森産のムール貝の透き通った海の旨味と、淡いミネラル感。栗山のかぼちゃの甘ったるくない淡い甘さと、爽やかでしっかりとした野菜の旨味、つまりは北海道の大地の滋味。

これらを食べ手が、最大限に味わい(それは食材ごとの火の入り、盛り合わせてひと皿になった時の料理としての温度、歯ざわり、舌ざわり、味…などのファクターの統合である)きれるようにと、精緻な計算と仕事がし尽くされているのである。


淡いミネラルの滋味が身上の、海の食材と大地の食材の料理。合わせるのは、南アフリカBreak a Leg の BLANC DE NOIR 2017。
サンソーのほわんっとしたミネラル感は、この皿を土台から「持ち上げて」くれる。




僕は昭和のそれも所謂バブル時代に、大企業の営業マンとしてワインのいう飲み物の味に魅せられ、そのプロになりたくて、会社を辞めたソムリエである。
まだ、ヴィオディナミワインという言葉は無い時代で、退社から料理修行を経て7年後にソムリエ試験に受かった2009年には、その先駆者達がちょうど登場し始めた頃であった。

しかも、2010年に持った店は、自分一人だけで経営営業するワインバー。これを8年間。
もう「ワインバーというところで飲めるワイン《とくにグラスシャンパン》は、うっとりする程きちんと美味しくなければならない。そのために、ワインバーは禁煙でなければならない。」その意地をこの札幌の街で通すだけの8年間だった。

ですから、こういう料理にこういうワインを合わせる…というセンスが全く無い。
通う飲食店も「自分が絶対にがっかりせずに済む」つまりは「知ってる行きつけ」の店だけだから。

こういうセンスを、僕は今、全て佐藤シェフに教わっている。

佐藤は言う。「『考える皿』と『考えるワイン』という組み合わせがあってもいいと思います。」

つまり、食べ手が料理を食べながら、その味の構成要素に想いを巡らせ、また、マッチングされたワインを飲みながら、その味の構成要素に想いを巡らせ、それらが脳の中で口の中で考え合わされた時に「ああっ!美味い❣️」となる訳である。
派手な贅沢な食材やワインからでは決してない美味さ。
う〜ん、なるほど…

まだ何年かは、ワインの世界に余生を置いておくつもりですからね。時流も知ってはいませんと。

佐藤はこう言い添える。
「でも、コース全部がそういう風だと、疲れちゃいますから (笑)」

「そういう風じゃなかったこの夜の皿」については、また次回ご紹介申し上げます。