銀色タペストリー(8)

連載エッセイ◎第8回

銀色タペストリー
残暑がぶり返したような、強烈な日射しの日比谷公園で、1ヶ月ぶりに出会った河合サン。
撮影を終えて、スタッフ一同と地下鉄千代田線の改札口に向かう。ひとりで切符を買い、路線図で乗り換えを確認すると
まるで何事もなかったかのように、銀色のボディの車体の中へ、するりと消えた。


河合その子
Sonoko Kawai
とりあえず芸能活動を休止して
この秋から ”フツーのOL”
のような生活をします、
と言っていた河合サンだけど、
それから早くも1ヶ月以上もの
月日が流れて、さて、
実際はどんな風に暮らしているのか。
理想と現実とのギャップはないのか。
そんな素朴な私たちの疑問に
応える形で実現した
今月号の銀タペなのでした。
何人かの読者の方からいただいた
励ましのお便りは
本人に直接お渡ししました。
河合サンは、元気です。



「ある、新米OLの1日」

 朝8時。目ざまし時計のベルの音がけたたましく鳴り響く。ベッドの中から手を伸ばして止めようとするけれど、いつもの所に時計はない。
「そうだ、今日から会社勤めなんだ……」
 アクビをしながら、もう少しフトンにくるまっていたい気持ちをしずめていく。大きく伸びをして、少しだけベッドのふちに腰かけたまま、ボンヤリ。

 部屋の中が暑い。今年は残暑が厳し過ぎるような気がする。カーテンを開けると、外は強い日射し。

 「あー、日焼けしちゃうなぁ」
 エアコンのスイッチを入れて、また少しボンヤリ。昨日、深夜番組なんか見なければ良かった。朝一番から、ちゃんと頭を働かせて仕事に取り組めるかしら?

 8時半。電話のベルが鳴る。勤め先の女の子からだ。
「会社までちゃんと来れる? 行き方を今、復唱してみて、何線に乗って、どの出口から出ればいいか」
 やっぱり、みんな不安らしい。ここ何年間、車に乗っての移動ばかりだった私、はっきり言って電車は苦手だ。OLやってみたいなんて言ってた事もあったけど、現実はそんな気楽なものじゃないという事が1日目にして解ってしまった。
「迷ったらすぐ会社に電話するのよ」
 持つべきものは友……か。


 歯を磨いて、お風呂に入る。そして朝食。メニューは”大人のふりかけ”とマルハのタイのお茶づけの素を御飯にかけ、お湯を少し入れてぞうすいのようにした物。それに梅干、納豆、卵焼き。パワーの源、しっかり食べなきゃ。
 愛犬にも御飯。メニューはいつもと同じ。でもおいしそうに食べてくれる。

 家を出て、地下鉄に乗る。駅が近くなるのは便利だ。片手に会社への道順を書いたメモを握りしめたまま、電車に揺られる。そんなに混んではいないけれど、座る事はできない。
 とある駅で電車を乗り換える。よしよし、なかなかスムーズにいってるわ。と思ったけれど、どうも様子がおかしい。駅の数は合っているのに、その駅名が違う。

 電車を降りて駅員さんに訪ねてみる。私としたことが……電車を乗り間違えてしまった! バタバタしながら、ようやく目的の駅に。けれど、ここでも出口を間違えるという失態。
 会社へたどり着いた。なんと初日から20分の遅刻だ。でも、みんな期待していなかったらしく、誰も怒らない。逆に20分なら、私にしては優秀だと思っているのかもしれない……あーあ。

 デスクに向かう。馴れない電話応対がツラい。営業用の電話応対は、敬語が使えればいいというものではないらしい。「電話の応対ひとつでその会社の印象が決まる」って教えてくれた人がいたけど、これは私には凄いプレッシャーだ。

 ワープロ打ち。これは学生時代にマスターしたから、なんとかなる。作詞の時は役立たなかったけど、やっと技術がモノを言うわね。でも、他の人よりはやっぱり遅い。仕方ないかぁ……。
 夕方6時。さすがに疲れた。会社の人の誘いで、近所の焼鳥屋サンに足を運ぶ。焼鳥屋とはいっても最近のお店はオシャレだ。BGMがジャズだもの。

 私はあまり飲めないので、もっぱら食べる方がメイン。ホンの1~2杯のビールで気持ち良くなってしまった。これでは、また電車を乗り間違えてしまうかもしれない……最後の最後に悪いクセが出て、帰りはタクシーに乗ってしまった。
 さあ、明日も頑張ろう!


……と、いくかなと思っていたんですよ。そんな生活をしてみたいっていう希望もありましたからね。

 ところがところが。休業後の私は、ホントにのんびりと何もしない日々を過ごしているのです。たとえれば、”ヒマで仕方ない主婦”のような生活です。

 なにしろ車が壊れちゃいまして、まず足がないんですよ。これだと、どこにも行けないから、遠出を全くしません。もちろん電車で行くような、ムチャなことは本物の私にはとてもできませんし。

 代わりといってはナンですが、自転車を購入しました。ブリジストンのカマキリトレンディとかいうシリーズのもので、シンプルで格好いいヤツです。これが気に入って、歩いて3分のコンビニに行くにも乗ったりしているんですよ。でも、車に乗ってるクセがついちゃってて関係ない標識守って(一方通行とか)おもいっきり遠まわりしてしまったり……。

 あとは家でテレビをよく見てますねェ、最近は。ワイドショーで紀子さまが軽井沢へお出かけした時の特集をやった時なんて、ずっと見てましたもの。そのあとはコンスタンチンちゃんの話題とか。TYOの人達は「芸能ネタとか見て、オバサンのネタに強くなってきてるんじゃないのー?」なんて言ってますけど、そこまではまだいってません。

 でも、旅の番組……秘湯の旅なんかの特集は必ず見ちゃいますね。ゆっくり温泉にでもつかりたいわ…、なんて言ってたら、やっぱりオバサンですか!?

 あと、欠かさず見てるのが”芸能社会”。これはやっぱり、ウラを知っている人が見てこそ、本当の面白さが解るんじゃないかしら。あそこまでドラマにして見せちゃうっていうのは画期的という気もしますけど、なんとなく今の私には他人事っぽくなっちゃっているような……。ワクワクしちゃいますね、逆に。

 とりあえず、私はかなり元気にやっています。特にこれといって何もしてはいないんですけれど、すぐ1日が過ぎてしまいます。ヒマ大好きだし、生活としては当たり前のことを当たり前にやるという規則正しい生活になっていますしね。

 楽器も、引越した後、配線をしていない(自分では解らない)ので今のところ使用不可能の状態です。しばらくはこの生活が続くことでしょう。しみじみ、普通の楽しさを噛みしめる今日この頃……。


ひとりごと

 初めて読んだ時は、ホントにOLになっちゃったんだーって、半分本気にしました(笑)  

よく読めば、矛盾だらけなことばかりです。

1990年、わたしは、18歳。

ブリジストンのカマキリ、わたしも乗ってました❗この頃は、周りも皆カマキリに乗ってたんじゃないかな。

自転車で、一通を守るのはその子さんらしいかな(笑) 

でも、本来は標識に「自転車は除く」って書いてなければ『その子』さんが正解ですよね❗

今更だけど、引っ越しをして、いつでも楽器が使える状態にしてあったら、休業がこんなに長くならなかったのかな~・・・


想い出のオムニバス』COLORS収録

1988年5月21日リリース

YouTube『yukikoi19』2018年5月8日公開


Weekend Monument』COLORS収録

1988年5月21日リリース

YouTube『yukikoi19』2018年5月30日公開