銀色タペストリー(6)
連載エッセイ◎第6回

銀色タペストリー

夏が来れば想い出す……と歌の文句にもあるけれど、夏休みという自由な時間にまつわるさまざまな想い出というのは
少しずつの差こそあれ、誰しもがまばゆいばかりの太陽の光の雫とともに、本棚の埃っぽい片隅の側に置き忘れていたりするものではないかと思う。
夏祭りの露店に並べられた極彩色の玩具のように、他愛ないけれどもかけがえのない大切な記憶のあれこれを、年に一度くらいは
そっと取り出して眺めてみたい。サテ河合サンの幼年時代の万華鏡、どんな情景が飛び出すことやら……。


河合その子
Sonoko Kawai
髪をバッサリと切ってしまって、随分と雰囲気が変わった河合サン。
年相応のしっとりとした落ち着きが漂う、とでも書いておいた上で付け加えれば、
「私の顔って、なんかクールに見えるらしくて誤解されるのよね」
などと言いながら、「この髪型で眼鏡をかけると松金よね子にソックリなの」
と形態模写をしてくれたことは、やっぱり書かないでおこう。


    夏です。小さい頃は長いお休みがあったけれど、今はそんなモノありません。いえ、別にダレてるわけじゃないんです。ヤケになってるというのでもありません。
 私は今、引っ越しの準備でバタバタしてます。これを皆サンが御覧になっている頃は新居に落ち着いている……といいなぁー。なにしろ、この夏、私は引っ越しに全ての時間を費やします。夏だ! 休みだ! 遊ぶぞ! なんていうのは、とてもじゃないけどできそうにありません。毎日、ちょっとずつ愛車で転居先に荷物を運んでいるんですもの。
 そんなわけで幾つものダンボール箱に囲まれて、息つぎしながら書いている今回の”銀タペ”は、今となってはもう帰ることのない日々、夏の想い出、夏のイメージなんていうのをつらつらと書いていこうと思います。


”スイカ”
 スイカの切り方は三角形。スイカバーの形です。昔、スイカって真っ赤でタネは真っ黒で、すっごい大きかった。それでおいしくてねー。最近のスイカはおいしくないと思います、スカスカしてて。
 黄色いスイカは気持ち悪くてキライでした。視覚の問題だけど、何かスイカとは思えない……甘くなさそうな感じなんだもの。
 ステンレスのお盆の上でスイカを食べると、透明の汁の中に赤いちっちゃいツブツブがいっぱい落ちてました。それが服とかに付くと、真っ赤になっちゃったんですよね。食べ終わって手をふくと、そのタオルも染まってね。

”育ち盛りは人並みにおてんば”
 私のうちは名古屋市の隣、いわばベッドタウンのような地域にあります。今でこそ都会的な建物がいっぱいですけれど、昔はうちから道を隔てたすぐ向うがミカン畑。そして竹ヤブもあって竹の子が生えてくる季節になると竹の子の匂いがすごくしたものでした。
 そしてちょっとガケのような段差の下には田んぼ。私はよくダンボールをお尻の下に敷いて、斜面をズズッとすべり降り、田んぼに突っ込んでドロだらけになってたんです。

 虫とりもよくやりました。朝、ラジオ体操に行く前に、お砂糖を水で溶かしたものを木の幹に塗っておくんです。そうすると、帰る頃にはカブトムシがいーっぱい止まっているんですよね。それを獲ったりね。でも、カブトムシのメスは嫌い。ツノがなくて、なんかゴキブリみたいなんだもの。カナブンも羽開くとゴキブリみたいですしね。ゴキブリとは違うと解っていても、やっぱりイヤでした。
 そういえば、くわがたに噛みつかれたこともありましたっけ……。

”座敷まわりのヘビ”
 ヘビも出ます、うちの近所は。”座敷まわり”っていって、そのへんの家をまわっているヘビなんですけどね。
 うち、鳥を飼ってたんですけど、日中は鳥かごを軒下につるしておくんですよ。で、ある日、うちの母がかごをしまおうとしたら、なんとヘビがいたんですよ、その中に。それも、鳥を食べちゃった後だから身体が大きくなってて鳥かごから出られなくなっちゃって、頭の方から何十センチかがタラ~ンってたれ下がったまま。
 それを見た母の悲鳴で祖父が飛んできて、大きな植木バサミでヘビをチョッキン! うーん、今思い出しても凄い世界だなー。キョーリョクでしたね、あの頃は。
 そうそう、屋根からいきなりヘビが落ちてきたこともありました。卵をまる飲みして、そのカラを割るために自分自身を道にたたきつけちゃうんですよね。ちょっと考えられないようなことが多々ありましたねェ、こうやって思い返していくと。

”かき氷”
 目がキョロキョロ動くかき氷器がありました。盆踊りの夜店でやっているカキ氷って凄く綺麗なのに、うちでやるとどういうわけかベチャッとしたのになってしまう。カキ氷はあのサクサクッとした感じがいいんですよね、ホントは。

”遊ぶなら、川”
 気持ちいいんですよ、川で遊ぶのって。うちの方は木曽川の下流ですから、水がホントに綺麗でね。澄んでいて、魚がいっぱい泳いでいるのが見えるんです。でも海と違って流れがあるから泳いでいると結構疲れちゃう。それに急に深くなって、足をとられると危険だから”奥には行っちゃいけません”とか言われて、川べりのあたりでパチャパチャやってました。

”宿題”
 この私ですよ。計画を立ててちゃんとやっているわけがないでしょう! 朝顔やヒヤシンスの観察日記、絵日記(小学生の時は母が絵を描いてました……バレバレでしたけど)、自由研究etc。だいたい新学期始まる3日前位にやってましたから。変わんないですねェ今でも……。


 最近の夏って、夏らしくないですよね。昔は太陽がカーッ!って照りつける暑さだったのに、今は地面からモワ~ッとくる暑さ。太陽もフィルターがかかっている感じでね。子供の頃って、太陽は真っ赤で直接見ることができないくらいにまぶしかったような気がしますけど。
 オマケに東京の夏は人がいなくなっちゃって淋しい。うちのマンションなんて、みーんな別荘に行っちゃってガラーンとしてますもん。お盆も実家に帰っちゃったりで。
 でも私は新居で、少しだけでも夏らしさを味わうために、よしずを下げて風流にいこうと思ってます。和室でソーメンを食べつつ、のんびりと過ごしたいな。

    撮影を行った日は、巷ではロイヤルウェディング真最中。都心のカラ梅雨の空には警視庁の飛行船ぶらさがって路上駐車禁止を戒めていた。

    西麻布の某喫茶店で待ち合わせ、撮影の打ち合わせをしつつお茶の時間を決めこんでいると窓の外の道路がやけに騒々しい。

    そういえば妙に制服姿の警察の姿が目に付くし、鉄格子で覆われたいかつい車も時折視界を横切っていく。

    挙げ句の果てに、機動隊の小隊が足並みをそろえて小走りに通り過ぎて行った。

    喫茶店の内側から眺めていると何やら映画の1シーンでも見ているようで妙に冷静に観察してしまった。

    いくら紀子サンフィーバーが凄いとはいえ機動隊はチトオーバーだと思っていたら何てことはないデモ行進の警備であった。
                                                〈編集ノオト〉

〈ひとりごと〉
夏休み

カブトムシ

川遊び

スイカ

宿題

さすがに、へびはなかなか私の回りにはいなかったけど、同じような夏休みを過ごしてたんだなぁ~
そう言えば、小さい頃祖母が虫かごから逃げたカブトムシをゴキブリと間違えてはたき落としたのを見て驚いたのを思い出しました(´▽`)

時は過ぎ、今日から新元号、令和時代の始まり

昭和から平成への代わり際にアイドルからアーティストへと駆け上がり、そして颯爽と駆け抜けて行ったその子さん。

新時代の令和に新たな記憶と記録をともに共有できることを、また願っています。
1989年リリース
アルバム『Dancing In The Light』収録
YouTube『yukikoi19』2018/04/10公開