銀色タペストリー

現在、表だった芸能活動をほとんどしなくなっている河合サンが、自らの表現の場として残している貴重な場所が
ライヴという空間である。年に数回のステージではあるが、半年、1年という間隔をおいて、彼女のファン達は昨日もそこに居たかのような表情で集結して来る。
渡り鳥が故郷へと戻って来るように、まるでそれは疑う余地のない当然の事であるかのような顔をして。そして、その中心に彼女が居るのだ。
この5月にも、そんな幸福な祝祭の時が、名古屋、大阪、川崎そして東京の有明で繰り返された……。


河合その子
Sonoko Kawai
実を言えば、このキャプションのスペースというものは
編集者が暇つぶしに書くものなんだが、前号のこの欄で”次号はツアー始末記だ”
などと文章の勢いで書いてしまったら、ホントにその原稿があがって来た。
嗚呼、なんという美しいタレントと編集との信頼関係だろう。
じゃ、次号は”その子にお酒を飲ませたら”をテーマに、ひとつ。あ、ダメ?


   1ヶ月のごぶさたです。これを書いている日、とうとう東京は梅雨入りしてしまいました。雨の日は大好きなんですけど、この季節は他に色々と付随してくるものがあるから、それがちょっと……って感じもします。

 さて、今回のテーマですが、何ともう決まっていたんですねー。前号のリードの所を見ていたら”ツアー始末記”云々と書かれていまして、アラアラなんて思いましたけど、私自身今回のツアーはかなり楽しめたのでリクエストにお応えして(コホン)”Replica Tour”の御報告なんぞを書いてみようと思います。

    まず、今回のツアーで何が楽しかったかというと、やっぱり新曲が盛り上がったこと!これは本当に予想以上にお客さんが盛り上がって下さったし、それより何よりステージの上の盛り上がりが凄かったんです。今までのツアーの中で1番楽しいツアーだったな、なんていうふうに思いますよ、改めて。

 これまでの私の作品と比較するとかなり異色の作品だし、サウンド・プロデューサーの方のアドバイスに添って意図的に作った曲ですから、自分自身としては最初は不安だったんです。ですから、嬉しい誤算とでもいうんでしょうね、きっと。

    ”Replica Tour”は基本コンセプトに”全オリジナル曲で行う”というものがあったのは皆さんも御存じだと思います。私自身は、実は他にも色々歌いたい曲があったんですけれど、昨年9月のMZAから考えて3部作の1つという事で、今回は全てオリジナルのステージをお観せするという事で一応ファイナルを飾ることになりました。

    しかし、です。『Replica』の作品を持ってのツアーとはいっても、私の場合、結構”盛り上がるための曲”っていうのがなかったりするんですよね。ラテンの派手モンっていうのは何曲かあるんだけど、それもリズムの強さっていう位で爆発できるようなものじゃないんですよ。それで沢井さんというサウンド・プロデューサーの方から”ここはひとつ、思い切ってハデなものを作ってみて”と言われて、新たに2曲作ってみたんです。

    が、結果は没。やっぱり何処かアルバムの延長線上にある曲で、ラテン系のリズム・セクションでやればいい仕上がりになるだろうけれど、ライヴにメリハリを付けるものとしては弱いという理由だったんです。

    結構、悩みますよねェ、これは。私の曲作りの基本となる部分を出せないということにもつながってくる訳ですから。で、色々考えまして”レコードにするっていうのを関係なく(つまりレコードには入れたくない!)ライヴのためだけに作ってみよう”、と、出来上がったのが「PASSING RAIN」と「泣かないわ」の2曲なんです。

コンサートにいらした方はご存じかと思いますが「泣かないわ」はストレートなアメリカン・ロック風のコブシ振り上げモン、そして「PASSING RAIN」はムード歌謡チックなナンバーです。まず「PASSING RAIN」の方が出来て、これはアレンジまでいった段階で狙い通りのものになったんで、”これはバッチリだわ♥”と思いました。が、ロック物の方は出来たはいいけど、どうやって歌ったらいいんだろう?なんて自分で考え込んじゃったりして……。でも、不思議なもので、リハーサルを繰り返していくうちにこのコーナーが待ち遠しいみたいになっていたんです。

    たぶん、”どういう風に聴かせよう”とか”ノせよう”とかいう事を考える以上に自分にとって面白くて仕方がない曲になっていったんでしょう。(ゲンキンなものだわ……。)最初は聴き手のことを考えてメリハリ付けのために作ったのに、自分の冒険心がムクムクと後から沸き起こってきて、結果、誰よりも私自身が楽しんじゃったみたいな感じで。

    他の曲、たとえば「プリズム」なんかもかなりアレンジをして、リズムなんかサンバにしちゃってたから、お馴染みの曲でも途惑った人がいるんじゃないかしら? 歌詞が出てくるまで何の曲か解らなかったりして。でもせっかくのライヴだから、予定調和的なものじゃつまらないですよね? 何から何までレコードと一緒じゃあ……ね。日々のノリっていうのもある訳ですし。

    日々のノリといえば、ステージの上もほとんどその日一発のノリ!っていうのも多かったんですよ。私とバンドの仕掛け合いみたいになっちゃってて、毎日が。私が勝手にフェイクして歌うとバンドが興奮して盛り上がって、バンド側の誰かがアドリブを効かせてくると今度は私がそれに対応していく……なんか、毎日のステージが新鮮でしたね、今回は。最終日なんて予定にないアンコールを私とバンドだけで決めちゃって、勝手に始めちゃったりもして。気持ちがハイだから、何でも来いっ!的なノリでしたね、あの時は。

 そんな風にステージが楽しかったから、終わった後もバンドの人達と一緒に飲んだりしてたんですよ。私はお酒はほとんどダメなんですけど、次の日にライブがなかったりすると、ホンの少しだけお付き合いするんです。

 ですから、普段お酒での失敗というのはないんですけど……今回は大阪のホテルでとんでもなかったりするんです、ホント。洗面所に靴が脱いである、ハダカンボで寝ていた、歯ブラシがベッドの横にある……私は酔ってしまっていたのでしょうか? 自分でも不思議なんですけど、それだけリラックスしてツアーが楽しめたってことなんでしょう、きっと。なにしろ、ただ作品を作るっていうのじゃなく、歌う事の楽しさを改めて見出せたのがとても大きな収穫でしたから。


    オマケ:髪をバッサリ切りました。”ちびまる子ちゃんカット”を狙ってたのに、それより少しオシャレっぽい……。

一旦、切ります。後編につづく