藤井聡太叡王vs 伊藤匠七段 :第5局の振り返り

今回の叡王戦第5局では、伊藤匠七段が藤井聡太叡王に勝利し、タイトルを奪取しました。ここでは、将棋ソフトを使って均衡が崩れかけた77手目からの局面を振り返りたいと思います。

 

対局の流れと評価値の変化

 

 77手目からの評価値の推移                     

 

 ①77手目 (-161)  :互角の局面。

 ➁84手目 (344)   :先手の藤井叡王が有利に。  

 ③97手目 (743)   :藤井叡王の優勢が強まる。          

 ④101手目(898)  :先手優勢の状態が続く。           

 ⑤103手目(934)  :先手優勢が更に強まる。             

 ⑥105手目(434)  :先手有利に戻る。              

 ⑦107手目(73)    :互角に戻る。            

 ⑧131手目(-1141)   :一気に後手優勢に変わる。

 

藤井叡王の有利・優勢が続いた後、105手目と107手目に評価値がガクッと下がっているのが分かります。ただこの時の指し手は、この後に紹介しますが、悪手でも何でもない、ごく普通の手でした。そんな手でも将棋ソフトには、ぬるくみえるのでしょうか。

 

⑦107手目からしばらく小康状態が続いた後、131手目で評価値が一気に-1141へと、奈落の底へと落ちてしまいました。

 

 

対局の詳細

 

先手:藤井叡王 後手:伊藤七段

戦型:序盤で角交換相居飛車 先手穴熊 後手右玉

 

検索エンジン:水匠5

評価値:先手有利の場合はプラス評価で、値が大きいほど先手が有利となる。

 

①先手が6五と突き捨て後手同歩に6六銀と出た局面

評価値 -161 互角

歩頭に銀を進めるただ捨てですが、ソフトの候補手も一致

この後、6六歩、6五桂、6四玉、5三桂左成、同金、6六飛車、6五歩と進む。

 

➁飛車を横に振り、後手が6五歩と打った局面

評価値 344 先手有利

この歩を同飛と取りますが、ソフトの候補手も一致

この後、5五同飛、4四玉、5三桂成、同玉、6四歩、同銀、同飛、同玉、6五歩、5三玉6四角、5四玉、4六銀(直下画像)と進みます

 

③先手が4六銀と打った局面

評価値 743 先手有利

この4六銀もソフトの候補手と一致

この後、5三銀、4三角成、5二銀と進む

 

④7二馬と王手飛車をかけた局面

評価値 898 先手優勢

この後、8一馬と飛車を取った時点で評価値は更に拡大し、⑤MAXで934となる  

 

⑥後手が7六歩と指した局面

評価値 434(実戦は6六銀と逃げたが、その時点での先手の評価値) 

 

ここでソフト推奨の手は銀取りを放置して、3四金、以下4二玉、4三歩と攻め続ける。銀を逃げた手は、ソフトにかかると疑問手として映ります。

ここでの攻防が一番参考になります。少し長くなりますが、自己分析をしてみます。

局面の考察と自己分析

今回の対局から学ぶべき点として、自分がこの局面に立たされた場合の反応とソフトの考え方に大きな違いがあることが分かりました。この局面で、もし自分が指すならば反射的に歩を取るか、銀を逃げるかを考えてしまいます。しかし、将棋ソフト「水匠5」はそのような思考には囚われませんでした。

 

銀を取らせても良いという判断

将棋ソフトは銀を取らせても、その後の局面で勝てると判断しています。これが人間との大きな違いです。即座に安全を確保するのではなく、局面全体を俯瞰して最善の手を指すことができるのです。

 

自分に欠けている踏ん切り

現時点で自分に欠けているのは、このような大胆な発想です。銀を犠牲にするという選択肢を持たずに、安全策を取ろうとする傾向があります。しかし、将棋は時には大胆な決断が必要です。銀を踏み台にしてでも勝利を目指す、その発想が大事なのです。この局面を通して、自分が一皮むけるためには、もっと局面全体を見渡し、大胆な決断をする勇気を持つことが必要だと感じました。

 

⑦後手の8六歩を先手が同歩と取った局面

評価値 73 先手が「普通の手」を2手指しただけで互角に戻ってしまった。

 

ここでもソフトは3四金、4二玉、4三歩以下を推奨しています。ソフトにとっては、「普通の手」を指しても、それを疑問手として捉えます。先手がこの2手を指しただけで評価値が一気に934点から73点へと861点も下がってしまいました。

藤井叡王はずっと1分将棋が続いていたため、普通であれば3四金は当然深読みしていたものと思われます。

 

 

⑧上局面の二十数手後に運命の6四桂が指されました。

評価値 -1141  この桂打ちが、敗着になったと考えられます。

ここでのソフト推奨の手は5五桂でした。

ここで5五桂ならば、まだまだこれからの将棋だったのではないでしょうか。

 

グラフが、互角→優勢→互角→敗勢と揺れ動いているのが一目でわかります。

 

この後の先手玉ですが、一番下の終局図の様に必至を掛けられています。

先手藤井叡王は、後手玉を詰ます以外にありません。

そこで、3四金以下の即詰はあるのでしょうか。

 

この後、罠が3か所に待ち構えています。それを紹介します。

3四金、4二玉に5二桂成と銀を取ったところですが、同玉は詰んでしまいます。

3一へ逃げるのが正解です。

 

4二銀と打った局面です。これを同銀以外は詰んでしまいます。

 

4三桂と打った局面です。同金以外は詰んでしまいます。

 

伊藤七段はこれら3つの罠に惑わされることなく、的確に対処されて事なきを得ました。

 

伊藤七段 新叡王おめでとうございます。

 

投了図  2五桂、4二玉まで156手にて投了

 

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