キングくんが成り上がった時の話をしてくれた。

「俺が生まれたのはコンゴの貧しい田舎だった。毎日親父が狩りに出かけてた。中学校卒業して仕事しようと思って街に出て、そこでサプールに出合った。」




 アンさんは驚いた。

「中学卒業してもう仕事?」

「俺なんかいい方だよ。中には小学校も卒業できない子どももいるからね。

 サプールの心構えを教えられて、サプールの衣装を借りて、サプールとしての修行をした。

 サプールとして成功して錦を飾るつもりでふるさとに帰ると、親父は高校に行くことを勧めた。親父は教育の大切さを説いていた。親父は本当は高校に行かせたかったけど学費が払えなくて行かせられなかった。でも自分で払えるようになったから行くように勧めたんだ。

 高校で勉強しながらサプールとしても活動してるうちに徐々にエリートとの人脈も出来始めた。ある日、そんなエリートのパーティーに呼ばれた。

 コンゴのエリートといえばちょっと怪しい世界に首を突っ込んだ人も多かった。そんなエリートの1人に仲間入りしようと思って話を聴いた。

 そのエリートは処世術を教えてくれた。そのエリートは難民上がりで過激な価値観の持ち主。」

「難民あがり!?」

 僕は驚いた。


「その人はワニの肉を食べていた。コンゴではワニの肉を食べるのは普通のことだった。」

「え〜っ、ワニの肉なんて食べるの?」

 まほろちゃんは驚いた。

「ワニを生け捕りにして市場で売って一般家庭でさばくんだよ」

「え〜っ!」

 みんな驚いた。

「でもいくらコンゴでもエリートのパーティーでワニを食べたりすることは少ない。俺は懐かしいなと思ってワニを食べようとした。

 するとその人はこう言った。

 肉を食うのは猛獣への仕返しさ。俺は猛獣に何人もの仲間を殺された。今は強くなったから猛獣を丸焼きにして美味しく料理してるのさ。アイス、ダイス、スライス、冷やして固めて切り刻め!」

 アンジュちゃんは驚いた。

「肉ってそういう気持ちで切るものなの?」

 まほろちゃんもあっけにとられてた。

「日本人とは考え方が違いすぎて言葉も出ないわ」


 ここから先はその人の成り上がりストーリーが始まった。

「その人もコンゴ出身。子どもの頃に誘拐されて子ども兵になる。そこから逃げ出して難民としてスーダンまで歩いて行く。コンゴ東部からスーダンまで数百キロある。移動手段は徒歩しかない」

 アンジュちゃんは質問した。

「スーダンに何があるの?」

「その人は難民としてヨーロッパに行こうとしたんだ。ところがアフリカ北部には広大なサハラ砂漠が広がってるだろ? サハラ砂漠は軍隊すら避けて通ると言われる過酷な大地なんだ。難民が徒歩で渡るなんてできっこない。そんなサハラ砂漠を徒歩で渡れる道が1ヶ所だけあって、それがスーダンにあるナイル川なんだ。ナイル川には水があるからその水を飲みながら生きていけるっていうわけさ。

 そこでその人が学んだのは、生きていくためにはどんな弱者も犠牲にしなきゃいけないってこと。村人を襲ったり、警官と戦ったり、同じ難民から物を盗んだり、仲間を見捨てたりもした。どんな動物でも殺して食べた。

 スーダンまで辿り着くと戦争してた。非正規軍に捕まってまた兵士になる。正規軍とも戦ったし同じ利権を狙う非正規軍とも戦った。とにかく戦い抜いた。生き延びられたのは幸運としか言いようがない。戦争で勝ち抜いて金鉱山の利権を手に入れ、金を白人のお金持ちに売るうちに白人との人脈を手に入れる。

 その後、重機の独占で稼いだ。今は週1でニューヨークにも通える程のお金持ちになる。」

 僕は質問した。

「重機の独占って?」

「ビルの建築などに使う重機をその人から買わないといけない。つまり他に売る人がいないから高くてもみんなイヤイヤ買うっていうことだ。

 その人は俺にこうアドバイスした。

 お前は勉強出来るから勉強を頑張って出世しな。但し目的は金持ちとの人脈だ。人脈さえ手に入れればこっちのもの。あらゆる手を尽くして稼げ。

 そこへサプールの師匠に再会する。サプールの師匠はこう言った。悪の世界に踏み入れると裏切りが許されないから悪の世界から抜け出せなくなるぞと。

 俺は悪のエリートと手を切ってサプールの師匠に支援されてハーバー大学への切符を手に入れて入学したって訳だ。」

「キングくんにそんな過去があったんだね」

 僕も感心した。


 それからキングくんはコンゴの裏事情を話してくれた。

「コンゴはお金持ちや政治家、役人、マスコミ、取締官などいろんな人によって悪事が隠されてる。戦争を起こして金鉱山で金を掘り出す利権を独占してるんだ。そのためにコンゴ人は貧しいままになってる。」

 アンジュちゃんは質問した。

「なんでコンゴ人が貧しい方がお金持ちが稼げるの?」

「搾取してみんなで口裏を合わせて隠すんだ。コンゴの政治家を買収して、政治家がコンゴのためじゃなくお金持ちのために働くように仕向けてる。

 つまりこういうことだ。もしコンゴの人が暴力的だとして、そんなコンゴ人を経済的に支援する人がいたとしたらその人は多分、権力欲の人だろうなと思う」

 アーサーくんは納得した。

「それはそうだな。暴力的な人を経済的に支援するのはその国のためにならないのだから。そんな国の人を経済的に支援するとしたらお金で言いなりにしようとしてる人だけだろうな」

「実はスーダンで戦争が起きているのも支配のための策略さ。難民を邪魔したり兵士にするためでもあるのさ。俺は難民として欧米に渡っても何の意味もないと思う。犯罪者になるしかないからな」

 キングくんはこう結論付けた。

「子供の頃から親に会うことが許されず戦わされて「人生は戦いだ」と思って生きてきた人にとっては、子供の頃に親に愛されてバナナや芋を採って平和に生きるような生活が軟弱でダメな生き方のように見える」

 アーサーくんは納得した。

「コンゴで戦争を起こす人の心理はキングくんによって見透かされてるのだね」

 キングくんはまた共感した。

「そうだよ。コンゴの人が平和で紳士的な価値観を持っていればそんなコンゴ人を助けようとする人も現れる。

 実は俺をサプールとして支援してくれたのもそういう人なんだよ」

 僕は納得した。

「サプールはあんまり儲からなくてコストだけがかかるって聞いたけど、そんなサプールに誰がお金を貸してくれるんだろうなと思ってた」

 キングくんは答えた。

「だから本当にコンゴを平和にしようとする紳士的な人が経済的に支援してくれたんだよ。だから俺はそういう人に恩返ししたいなと思う」


つづく