ある日、キングくんは正装をしてきた。全身真っ黒のタキシードを着て、蝶ネクタイして、シルクハットをかぶって、葉巻をくわえ、ステッキを付いた。
「これは何の格好なの?」
アンジュちゃんの質問にキング君は笑顔で答えた。
「サプールだよ。俺の祖国コンゴで流行ってんだ。コンゴにはサプールっていうファッションがあってな、こういう格好をして街中で歌い踊って人々を楽しませるっていう文化があるんだよ。
実は俺は一流のサプールに認められた本物のサプールなんだぜ」
「へぇ、素敵」
アンジュちゃんは感心した。
キングくんは踊りだした。
「ほらっ、こんな風にタップダンスのように足を鳴らして、肘を曲げて腕を振り、1歩進んで2歩下がり、クルッとターンして。」
キングくんはサッカーボールを使ってレフティングもした。それを見たアーサーくんも感心した。⚽
「カッコ良いではないか」
みんなは席に着いた。
キングくんは話し出した。
「コンゴで流行ってるサプールはフランスの紳士から学んだダンスなんだ。ダンスを踊るだけでなく一流の紳士としての立ち振る舞いも学ぶ。そこで一番大切とされるのは平和主義でいること、どんな時でもイライラせず笑顔でいること、陽気で明るいこと。」
アンジュちゃんはまた感心した。
「キングくんにそんな一面があるなんて思わなかった」
「サプールは大変なことが多いコンゴで人々に希望を与えてるんだ。僕はコンゴがサプールで有名になって欲しいな。そして平和で豊かな国になってほしい」
「コンゴって面白い国だね」
キングくんは続けた。
「コンゴではサッカーも盛ん。実際のところはコンゴが先進国になれるかどうかはサッカー次第という面もあるんだぜ」
「どういうこと?」
「コンゴのサッカー人気は凄まじくてね、みんなサッカーに夢中なんだ。コンゴのサッカー選手が強くなれば周りの国から一目置かれる。そうすれば経済的にも強くなれる。」
僕は聞いた。
「サッカーの人気が経済的に豊かさにもつながるってこと?」
「そうだよ。サッカーの強い国にはみんな憧れるからコンゴがサッカーに強くなればコンゴで働きたいっていう人も増えるって訳。
でもコンゴのサッカーは今はまだそんなに強くないんだ。コンゴのサッカー選手が強くなってもすぐ欧米のサッカーチームに引き抜かれちまう。それでいつまでたってもコンゴが弱いままという悪循環」
話を聞いていたアーサーくんは納得気に頷いた。
「なるほど、政治経済のエリートの世界にも同じ状況があるのだろうな」
「その通り。若くて優秀なコンゴ人が欧米に留学したとしてもコンゴに帰らずに欧米で働き続けることが多いんだ。コンゴでエリートとして働くよりも欧米で平均的な暮らしをする方がいいってな。だからせっかくコンゴ人がいい学歴を取ったとしても人材が流出するだけ。
だからそんな状況を変えるにはサッカーで強くなきゃなんねぇ。
そしてサッカーが強くなれば社会問題の解決にも役立つ」
「どうしてサッカーが社会問題の解決に役立つの?」
アンジュちゃんはまた聞いた。
「コンゴのために働きたいってゆー優秀な人が政治家になるには強いサッカーチームとのコネが必要。コンゴ人が差別されてるとか不当に強制労働されてるとかそういう問題もワールドカップで勝つことで解決する。
サッカーの弱い国が戦争に勝っても何の意味もなくて、サッカーが強けりゃ戦争なんかしなくても国も強くなれる。だからみんな戦争やめてサッカーすんだ」
次の日アンジュちゃんがカフェでランチを取っている時にトーマスさんとおしゃべりをした。
「アメリカではサッカーって流行ってるの?」
「アメリカではあんまりサッカーって流行ってないねぇ」
「なんでアメリカではサッカーが流行らないの?」
「アメリカはアメフトがあるからね。アメリカで一番人気のスポーツといえばアメフトだよ。
世界中の国々、かつてヨーロッパに支配されてたアフリカ、南米でサッカーが盛ん。サッカーの生まれ故郷であるイギリスに勝つことでリベンジしようとしてるけど、アメリカだけはアメフトっていうスポーツを考え出すことでイギリスに対抗しようとしてるんだね」
「コンゴっていい国よね。私はいつか行ってみたいな」
それに対してトーマスさんは、
「コンゴは大変な国だよ。治安も悪いし戦争も盛んだよ。僕も行ったことあるけどすごく大変だったよ」
それを聞いてアンジュちゃんはショックを受けた。
アンジュちゃんはまほろちゃんと2人で話をしてる時 またその話をした。
「コンゴって戦争が盛んな国なんだって」
まほろちゃんは答えた。
「きっとコンゴって国、2つあるのよ。1つはサプールが盛んで、もう一つは戦争が盛んなのよ」
「じゃあキング君が話したのは平和な方のコンゴなのね」
アンジュちゃんは安心した。
その後またカフェクラブの話し合いの時間になってアンジュちゃんは質問した。
「ねぇ、キングくん、コンゴって国2つあるの?」
「うん、2つあるよ」
「1つはサプールが盛んで、もう1つは戦争が盛んって聞いたよ」
「ちょっと違うよ。サプールはどっちの国でも盛んだよ。残念ながら戦争はどっちの国でも起きてる」
アンジュちゃんは残念がってうつむいた。
「アフリカで戦争が盛んなのは何でなの?」
「政治家が自分の国のために働こうとせずに白人にお金をもらって白人のために働こうとするからだよ」
それに対してアーサーくんは反論する。
「それは違うな。アフリカの国々は共和国とは名ばかりの王国だ」
それをキング君は一部認めた。
「確かにはアフリカの国々は民主主義というより王国だね」
それにアンジュちゃんは共感した。
「私は民主主義より王国の方がおとぎ話みたいでメルヘンだと思うな」
アーサーくんはこういった。
「そんなものではない。アフリカ人は狭い世界で自分が一番偉いと思っている井の中の蛙だ。まさにキングオブアフリカだな。はっはっはっ」
アーサーくんは勝ち誇ったように高笑いした。
つづく