以前、こんなことがありました。


15年以上前のことです。


その頃、私たち家族はとあるマンションの低層階に住んでいました。



当時子どもがまだ幼く、常にベビーカーを押しながら移動していたので、自宅マンションでもエレベーターをいつも利用していました。



そしてその日。



買い物から帰り、いつものようにエレベーターの前にいくと、ちょうど1階にとまっており扉が閉じかかっていました。


ボタンを押すと扉は開き、そこに1人の高齢男性が先に乗っていました。








あ、すみません。

こんにちは。


簡単に挨拶をして、降りるときにベビーカーを出しやすくするため私は後ろ向きに乗りこみました。




エレベーターを利用するものの低層階や移動階数が少ないとき、人はあまり会話をしないものです。


なぜなら、中途半端に話を切り上げねばならなくなると分かっているからです。


知り合いでもせいぜい天気の話題くらい。




いつも通り、その先に乗っていた人とはそのまま言葉をかわすことはなく、私は点灯が移動していく階数表示をながめていました。









何かが視界に入っています。


聴覚コントロールをしている私は、目に大きく頼っており視野は広い方です。



なんだろう。



エレベーター前方に、後方をうつす小さなミラーなどはありませんでした。


扉に何かうつるか目を凝らしました。


光の加減で見えません。



次に私は、扉が開いたときにどうするかを考えました。


あと数秒で目的階につく。


もし何かあるようだったら、ベビーカーを外に押し出し、昔教わった肘で顎をうつか、踵で膝か脛か股の間かどこかにあたるかもしれないキックをしようと考えていました。



血圧も上り目も血走った私は、ベビーカーを強く握りしめました。










すると、ほれほれと。



少し顔を向けると、レモンが2つ差し出されていました。



後ろをさっと振り返ると、おじいさんが何か言っています。

ちなみに改めて見ると知っている人でした。



あのさ、うち2人だから。

食べきれないからさ。


ほれほれと。



え、あ、どうしよう。


受け取ろうとしましたが、手がひらきませんでした。


私たちが降りる階で扉はすでに開いています。


すると、おじいさんは『いいからいいから』とレモンをベビーカーの子どものお腹の上に乗せました。



どうにかお礼を言って受けとり、あーどこかにあたるかもしれないキックをおみまいしないでホントよかった、(なんなんだよ、あぶな)と自分に心底ほっとしヨロヨロと自宅に帰りました。



家で洗って一応匂いを確認してから試しに食べてみると、とても酸っぱくて美味しいレモンでした。(終)








さて初耳怪談、今回のお話は・・・



山から聞こえる声

~怪談師: 大赤見ノヴさん~




≪キーワードの紹介≫

Bさん家の近所

畑がいっぱい

歌声に耳をすませると

山の中腹

逃げよう

土壁









怪談の主要テーマ、何かが何かで何かわからないけどたぶん何かがきっと来る。

追いかけられたらどうしよう。

つかまっちゃったらどうしよう。

帰れなかったらどうしよう。

日々人は何かに怯えて生きています。




では私の採点。


怖い話に不可欠な3つの項目で星をつけます。


〈怖いと思う〉★★

〈ためになる〉★★

〈考えさせられる〉★



◆講評

何となくの感性は大切ですね。

ビー玉を持つと家が傾いてないか調べたくなる、フーセンを持つと限界まで膨らましたくなる、回転扉をもう1周したくなる。

何となくで生きる我々は、何となくとの戦いもあり、何となくを捨てないといけないときもあります。

ちゃんと鍵を閉めたか何となく気になる人は、ルーティーンの最後に玄関付近の写メを1枚とって出掛けてみよう。

何となく安心します。




シリーズ4はこちら↓↓