〈S〉


  この春から、出版社に入社し 社会人 1年生となった

仕事は覚えることばかりで…まだまだ これから…好きで 入った会社だし頑張っていこうと 毎日 奮闘する日々…

仕事に関しては、学ぶのは好きだから …大変でも それほど 苦ではない…が…


会社に通勤するのに 乗る 電車…満員電車…

朝は乗車率120%かっていうくらいの 人、人、人~…!

この満員電車が なかなか 慣れない…

毎日、毎日 乗って会社に向かう…これを 繰り返せば、慣れていくのだろうか…?


その日も駅の ホームで 会社に向かうための電車を待っていた…

間もなく 電車が ホームに滑り込んできて…並んでいた 乗客が 次々と電車に流れ込んでいく…

その時に 一瞬 甘い香りが 鼻を擽る…  ん?今のは 何?誰かの…香水の匂いか…


会社の最寄りの駅までの 約20分間… 毎日 早く着けと 思いながら 乗っていたけど…


ふと…窓際に立ってる男の子に 目を奪われる…


キレイな子だな…高校生位に見えるけど…私服だから、大学生とか専門学生とかかな…?


その子は、次の日も 同じ電車だった…どうやら乗車する駅が 同じようだ…

その日も その子は窓際に立って、車窓から見える外の景色を ぼんやり眺めている…


その男の子は…降りる駅も 同じだった…その子は改札を出ると、バス停の方に 歩いていった…

俺は、そこから歩いて 会社に向かう…


それ以降も、その子とは 毎朝 同じ電車の同じ車両に 乗ることになる…


満員電車で 憂鬱だった 毎朝の通勤が… その子に会えることで、少し 楽しみになる…


目の保養ってやつか…キレイな その子を 毎日 見てた… じ~っと 見てると 怪しいやつだからな…

チラッ…チラッって 感じで…充分 怪しいか…(^^;


ああ… もう 駅に着いたか…長く感じていた20分間が、 あっという間に過ぎる…


もう少しだけ…その子の 近くに 乗ってみようか…

俺は、その子のキレイな横顔を もう少しだけ近くで 見てみたくなった…


その日、ホームに並んでた その子の 近くに並んで 電車が 来るのを 待った


その子と俺の間に 1人2人 くらいって ポジションに 乗ることが 出来た…

ああ…近くで 見ても やっぱり キレイだな…

それからも、俺は そのポジションに乗るべく、毎朝、その子を見つけると ホームで近くに並ぶようになった


ある時… その男の子の様子が おかしい…

何だろう…胸に抱えてる鞄に 顔を埋めて…少し震えているような…

嫌そうに 身を捩る その子に触る 手だけが 見えた…痴漢か…!?

この…まわりにいる 誰か…だよな…

その手を掴んで 駅員に突き出すのが 正解か…

あまり 大事に しない方が いいのだろうか…


とりあえず、その回りに 聞こえるような声で…


「痴漢は 犯罪ですよ」と 言ってみる


その手は…その男の子から離れていった…

次に 見つけたら、駅員に突き出してやろう…


その子は ビクッとして、俺の方を見た…

うわ…涙目に なってるじゃんか…


そして、駅に着いた…


電車を降りて、階段を 降りて…改札を抜けると…


「あのっ…!」と スーツの上着を クンッと 引っ張られる

「え…」と 振り向くと、あのキレイな男の子が立っていて…

「あの…さっき…ありがとうございました…」と頭を下げた

「あ…ごめんな、駅員に突き出せたら良かったけど…」

「いえ… 大事に したくないので…」

「…大丈夫?」

「はい…」


震えてたし…涙目だったし…嫌だったろうな…


「学校? 行ける?」

「はい…」


あ…やっぱり 学生か…

まだ 話してたいけど…なんて…

お互い、遅刻だよな…


「じゃあ、俺、行くね?」

「はい…ありがとうございました…」

「…気をつけて」


次の日、駅のホームに着くと…その子が 俺に 気づいて、頭を下げた…


「おはよう」と 声をかけてみる

「おはようございます…昨日は 助かりました」

「いや…俺は 何も…」


間もなく 電車がホームに入ってきて…俺は その男の子の傍に 立ち、壁を手で押し…

誰にも その子を触らせないように、狭いながらも 少しスペースを作る

間近で見る その子の 顔は やっぱりキレイで…上目遣いで 俺を見る その顔は 可愛くもあって…

この甘い香り… 誰かの香水の匂いかと思ってたけど…この子の香りだったんだ…

ずっと…嗅いでいたいような…そんな香り…って、俺、変態みたいじゃね~かっ💦


そして…


朝、駅のホームで会うと、挨拶をするようになり… 少しずつ 話をするように なっていった…


そのうち…


「翔くん、おはよお」

「智くん、おはよう」


名前で呼び合う ようになる


彼は、大野智くん…


電車で 降りる駅から バスで 2駅先の デザインの専門学校に 通ってるらしい


甘い香りの 智くん…


俺は 毎日、電車の中の20分間…彼を 痴漢から守る…自称 智くんのボディーガード…


が、しかし…!


甘い香りの、キレイで可愛い 智くん…

話し方も ほんわかしてて…何だか ずっと 話をしていたくなる


貴方を 知るたびに…どんどん 惹かれていく…


この甘い香りの 智くんに誘惑されて…


気を抜くと、貴方を 抱きしめたくなる…


って、そんなの… 痴漢と 変わらね~じゃんか…


いや、そんなのと 同じじゃね~よ…


俺は…純粋に…智くんのことが…


え?


智くんが… 何…?


ああ… そうか…


俺は… 貴方を…