〈S〉


  高校の入学式…


俺の入った高校は、入学式の時に 2年の先輩方が 新1年生の 胸に 花を付ける習わしがある


俺の胸に花を飾ってくれたのは、2年の大野智さんだった


俺より小柄で華奢で…何だか 良い匂いがして…


『楽しい 高校生活を!』って、まあ、俺より背が低いから 上目遣いで 言われて…


覗き込まれるようにして、ふにゃっと 笑った…


その瞬間… 大野先輩の 全てに 気持ちを持っていかれた… 所謂 一目惚れってやつ…


それ以降、校内で 見かけると、つい 目で追ってしまう…

移動教室の時や、体育の授業や…お昼も学食や、たまに中庭で お弁当を食べてるのを見かける


大野先輩は いつも 二宮先輩と 一緒にいる…2人は 兄弟のように 仲が良くて… じゃれ合ってるところを よく見かける…

かなり 強めのスキンシップ… もしかしたら、つき合ってたりするのだろうか…


放課後 大野先輩は、よく 校庭の隅のベンチに座って 絵を描いてるようだ…

何を描いてるんだろう…?

そうして 絵を描きながら…時折 空を見上げたり、たまに 傍を通りかかる 友達や知り合いと喋ったりしながら、二宮先輩の部活(野球部)が 終わるのを 待ってるみたいだ…

たまには 俺の部活(サッカー部)の方も 見てよ!…と思いながら… 

大野先輩が 気になってるので、あまり練習に身が入らない…

サッカー部が終わる頃… 野球部も 終わり、大野先輩は 二宮先輩とだったり、たまにもう1人野球部の人と 3人で帰ったりしている

何日かして、その野球部のもう1人の人は、 松本先輩だと 知る…


大野先輩は…2人のどちらかの 絵を描いてるんだろうか…それとも ただの風景画なんだろうか…


こんな感じで… 大野先輩を ただ 見ているだけの日々が 過ぎていく…


ある日の部活終わり…


「翔ちゃん、帰ろうよ」

「あ、うん」


同じクラスの雅紀が 呼びに来る

バスケ部の 雅紀は、部活が 終わる時間が 被ると一緒に 帰ってる


「…くふふ♪」

「何だよ?」

「ま~た 大野先輩 見てたの?(笑)」

「え… まあ…な…」


雅紀は、俺が 大野先輩の事を 好きなのを知っている…


「もう 半年以上 見てるだけじゃん!話しかけたりしないの?」

「そんなの…出来る訳ないじゃん…」

「部活ん時、わざと ボール 大野先輩の方に飛ばしてみるとか…」

「…やったよ」

「えっ?そうなの?」

「野球部の 先輩やら マネージャーやらに、気をつけてって、投げ返された」


「あちゃ~…!」


でも… 大野先輩、来年 3年になると 受験だもんなぁ… そうなる前に… 告白したいけど…


「なかなか 話しかけれないんだよなぁ…」


スマホの番号とか 聞いても、何で?ってなるよなぁ…


「もうさ、告白しちゃえば?」

「簡単に言うなよ…ただでさえ、話しかけれないって言ってるだろ」

「じゃあさ、手紙 書けば?」

「へっ?」

「ラブレターだよ♪」


ラブ…レター!?


「話しかけれなくても、手紙  渡すくらいは 出来るでしょ?」


なるほど…


アリかも しれない…



俺は、その日の夜 大野先輩に 手紙を書いた…


あれこれ 書いては 便箋を丸めて捨てる…


う~ん…なんて 書きゃ いいんだ?


もう…ここは、シンプルに…


『好きです』と 書くか…


それから…


大野先輩が 在学中の 間 だけでも いいから…

(本当は 良くないけど…)

つき合ってほしいと…


そして、大野先輩宛の 手紙を 書いた…


のは、いいけど… そこから また 渡すまでに 時間を要した…


そのラブレターは…暫く 持ち歩く事となる…


はぁ… 手紙、渡すだけなのに…


どこまでも ヘタレな 俺…


そうして… 


気づけば、俺は 高2の春を迎えていた…


当然、大野先輩は 高3に なった訳で…


せめて…せめて… 夏休みまでには 渡したい…!


俺が… 大野先輩を 見すぎなのだろうか…


時々、大野先輩も こっちに視線を向けることがある…


あまり…ジロジロ見ないように 気をつけないと…


そして…


俺が あんまり もたもたしているからか…


恋の神様が 焦れて、チャンスをくれたのだろうか…


パス練習をしていた 相手が 大きく蹴り上げたボールが… 大野先輩の足元に 転がっていった…


ドキドキしながら…


「すいません!」と 頭を下げると…

「蹴れないから、こっちまで 来て~」


と言われる…


マジか…!


あ、手紙! 手元にない!


大野先輩の傍まで 走ると…


「はい!ボール♪」と手渡される

「…ありがとうございますっ」


もう一度 頭を下げて、すぐ 立ち去ろうとすると…


「部活 頑張ってるね、櫻井くん」


「え… 俺の…名前…」


「ええっ…入学式の時に お花 つけたの…覚えてない?」


「覚えてます!大野先輩ですよね!」


「そおだよ♪」


…どうする… 渡したいものがあるって… 言ってみようか… 受け取ってくれるだろうか…


「大野先輩…」

「なあに?」

「…渡したいものが… あるんですけど…」

「渡したいもの?」

「はい…」

「んふふ… ラブレターとか?(笑)」


!?


どうする… ここで 『はい』って 言ったら、受け取ってもらえないか…でも…


「なぁんだ、違うのか~」


大野先輩は…冗談で 言ってるのかもしれないけれど…


言え!俺!


「…違いません」


「えっ…」



言った… 言ってしまった…


「今日…部活 終わるの 待ってて いい?」

「はいっ!え…でも、二宮先輩達は…」

「先に 帰ってもらうよ」

「いいんですか?」

「うん…あ、櫻井くん、呼ばれてるよ」


「あ、はいっ… えと…じゃあ… あとで…」


「うん、あとでね♪」と言って 大野先輩は、ふにゃりと 笑った


部活が 終わり、着替えて 校庭の方に行くと、大野先輩が 1人で ベンチにいた…


「お待たせしました」と走って傍まで行くと、

「お疲れさまぁ」って、また笑ってくれた…


手紙が入ってる制服のポケットを 上から 押さえた…


やっと… 渡せる…


「あの…これ…」と 手紙を差し出すと…


てか…だいぶ前に 書いたやつだから、ヨレヨレじゃね~か…


「読んでも いい?」


「えっ…ここで?」


「ダメかなぁ?」


出来れば…帰ってから 読んでほしいけど…


断られるにしても… 今日、この場じゃなくて…


ワンクッション 欲しかった…


でも、ダメなんて 言えないし…


「…どうぞ」


「うんっ」


と、大野先輩は 俺が書いた ラブレターを その場で 読み始める


俺は、大野先輩の動向を 隣で見まもる…


すると…


大野先輩の下がり気味の眉が…もっとさがって、ハの字になって… 俺を見て…



「ごめん…」



と、大野先輩は一言 呟いた…