〈O〉


  放課後……

校門で 松潤が

「智、悪いっ…今日、急用で 一緒に公園 行けない」

「あ…いいよ、今日 何人?」

「三人だけど…」

「ん、わかった」

「あ~…でも、一人 男で…常連の奴なんだけどさ… 今日、最後だからさ…」

「あ、そおなの?」

「うん、ちょっと 気をつけて?」

「何を?」

「時間 越えてのハグとか…さ…」

「ちゃんと ルールは守ってもらうよ」

「本当に 大丈夫?」

「大丈夫だって!」

今までだって、そんな横着な人 いなかったしね…


公園に着いて、深い ため息をつく…

早く…やめたいなぁ…

ここんとこ 僕は 翔のことばっかり 考えてて、早く このバイトをやめたくて 仕方なかった…

公園の中に 入ってく

女子が二人と… ああ…この男の子…リピーター率…確かに 高い…

名前は知らないけど、顔は 見覚えがあるかな…

女子二人と ハグ… その男の子の番になった…

「今日… 俺、最後なんだ…」

「そお…今まで ありがとね」

「少し…長めに お願い 出来ないかな…お金、倍 払うし…」

「それは…ムリ…かな…ごめんね…」

「そうだよね…ごめん」

少し 嫌な 予感はしたけど、いつも通り 1分間ハグをした

1分 経って、体を離そうとしたら、その男の子の顔が 近づいてきて…

「…やだっ!ダメだって!」

顔を 背けようとしたら…

『なっ… なにするっ』

って、その男の子の 声のあと、

「同意のない キスは 犯罪だぞ」

え…この声…何で…ここに…

「…しょおっ…」

「お前、どこの学校だ?名前は?」

『…大野くん、ごめんなさいっ』

って、その男の子は逃げるように 公園の入口の方に 走り出して…

「あ、待ちやがれ、このっ…」

翔が 追いかけようとしたので、

「しょおっ…もお、いいからっ…」

そう言ったら、翔は 追いかけるのをやめて、僕の方を 見た…

どおしよお… ハグのバイト…翔に知られた…

知られる前に やめたかったのに…

翔…怒ってる?もお…僕のこと 嫌になった…?

涙で 目頭が 熱くなってきた…

「… 智くん、泣かないでよ…」

「…だって…」

翔は 僕の手を引いて…

「帰ろ?」

そう言って、入口の方に 歩きだした


公園の入口に停めてあった 僕の自転車を 翔が 引いて 歩いてくれる

僕は、翔の制服の裾を後ろから掴んで 一緒に歩いてく…

何か…翔の背中が少し大きく見えた…てゆーか…あれ…翔… 僕より 背が伸びてない?

いつの間にか 僕より 背が高くなってる翔に…胸が キュッとなった…


翔の家に 着くまで、何度も 翔の名前を呼んだ…

「…しょお…」

「なに…?」

「ううん…」

「………」

「しょお…」

「うん…」

「…しょお…」

「智くん…なに?」

「ううん…」

「… 智くん」

「ん…?」

「ハグ彼… いつまで やんの?」

「ハグカレ?」

「うちの学校では、そう呼ばれてるよ…」

「そお…なの…?」

「うん…」

「もお…やめたい…夏休み前で…やめる」

「本当?」

「うん…」

「ね、今度から 俺 、公園に 迎えに行くから」

「え…でも… いつもは 松潤が いてくれて…」

「それでも…行くから」

「しょお…」

「今日みたいなこと… よく あんの?」

「ううん、初めてだよ、あんなの…」

「そっか… ま、とにかく 次から 俺も 行くから」

「いいの…?」

「いいの!」

「うん…」




〈S〉


  俺の部屋で 二人になって…

智くんを そっと 抱きしめた…

「しょお…?」

智くんも 俺の 背中に そっと 腕を回す…

「あ… 千円 払った方が いい?」

って ちょっと 意地悪で 言うと…

「… しょお…の バカ…っ…」

って また 智くんが 泣き出したから、慌てて、

「ごめんっ」

って 抱きしめる腕に 力を入れる

そしたら…

「僕も…ごめん…」って…


智くんが 泣き止むのを 待って、俺は、 何で ハグの バイトを してるのか 聞いてみた…

智くんは、ハグのバイトを するようになった キッカケから、何で 続けてたのか…

そして、やめようと思った 理由も教えてくれた

「ねぇ」

「ん?」

「俺が、今日 公園に 行かなかったら、黙ってるつもりだったの?」

「え… う…ん…」

「何で?」

「だって… 嫌われると 思ったから…」

「俺が… 同じように バイトしたら、どう思う?」

「え… やだ… そんなの…」

「嫌いになる?」

「… ならない」

「 黙ってたら、別に わかんないから、いい?」

「え… やだ…」

「言えば、いい?」

「…やだ…」

「智くん…」

「だって… やだもん…」

「はぁ~… じゃあさ、智くん」

「何?」

「これからは、俺に 隠し事 するの やめて?」

「え…」

「わかった?」

「…うん…」

「本当に?」

「うん…」

「じゃあ、聞くけど… もう 俺に 隠してる事 ない?」

「えっ… もう…ないよ…」

「本当~に?」

「う…ん…」

「… 隠してると、キスするよ…?」

「え… しょお…?」

「同意… してくれる?」

「…ん…」

俺は、そっと 智くんの唇に 自分の唇を重ねた…

ああ… やっぱり…智くんじゃん…!

「智くん…」

「な…に…?」

「小5の時…プールで、俺を助けてくれて ありがとう」

「え… な…んで…?」

「智くん なんでしょ…?」

「… 気づいてたの…?」

「うん… 準備運動?」

「あ…れで…?」

「それと… 今のキスで 確信した」

「あ…」

「もう… 俺に 隠してること ない?」

「うん…」

「本当に?」

「本当に…」


もう一度 短く 智くんにキスすると、智くんが また 涙を 流した…

「えっ…何で…」

「だっ…て…」

「あ… キス… 嫌だった…?」

ふるふるって、智くんは 首を左右に 振った…

あ… 違うのか…

「じゃあ… もう1回 して いい…?」

「ん…」

今度は 少し長めに 智くんにキスをする…

智くんの濡れた 頬を指先で 拭う…

「泣き虫 だな…」

「違っ…」

「違うの…?」

「しょおの…前で…だけ…だから…」

「うん… 可愛いよ」

「…可愛くなんて…」

「俺にとっては 可愛いんだよっ」

智くんを 抱きしめる

「しょおのが… 可愛い…」

「え?俺?」

「うん…」

智くんを見ると、涙目で ふにゃりと 笑う…

やっぱり… 可愛いのは 智くんだよ…