田島木綿子 著
本題に入る前に、横道にそれる。
私は北海道の沿岸部に育ったので、夏は毎日海かプールで泳いでいた。
水面で泳ぐより、海の底を見ながら水中を遊泳する方がずっと気分が良かった。
クジラになった気分だった。
長じて、いきつけのスナックのママに”あなたの前世はくじらだ”といわれ、妙に納得しうれしい気分になった。
また、私が子供のころ浜にクジラが打ち上げられたことがあった。
付近の住民が総出で見物に押し掛けてきた。
誰かがクジラを捌いていてみんなに一切れずつ渡していた。
私ももらって家に帰った記憶がある。
ということで本書の主題は、浜に打ち上げられたクジラやイルカを調べることを生業にしている研究者の話である。
海の哺乳類が海岸に打ち上げられることを専門用語で”ストランディング”というらしい。
日本では毎年300頭前後が打ち上げられるらしい。
著者は国立科学博物館の職員だが、この情報が入ると仕事を放り投げて、現場に急行するのが常であるようだ。
目的は打ち上げられた原因の究明や、個々の種の生態を明らかにするためだ。
時間が経過してしまったクジラの解剖は悪臭のとの戦いである。
肉食哺乳類の内臓はさぞ臭いだろうと想像できる。
ともかくストランディングの原因は、病気、感染症、餌の深追い、海流の読み間違い、漁具、漁網との接触などいろいろあるらしい。
が、いかんせん時間がたっていると内臓が腐敗しているため原因を特定できない場合の方が多いらしい。
大変な仕事もあるものだ。
一番興味を引いたのは、大地震の前には大量のストランディングが起きているということだ。
東日本大震災の一週間前に茨城県で50頭のイルカが打ち上げられた。
また2011年ニュージーランドでマグニチュード7クラスの地震の時にも、直前に100頭ものイルカが震源地近くに打ち上げられたらしい。
イルカやクジラは海底の変化の予兆を感じ取れるのかもしれない。
大量のストランディングがあったというニュースがあれば気を付けなければならない。
著者は東大の大学院まで出て、博士号まで取得したのに、長らく非常勤職員だったことがさりげなく語られている。
不安定な身分でも研究への情熱があったから過酷な仕事を続けてこれたのだろう。
現在は常勤職員になっているようなので、胸をなでおろしたのだが。
これからもさらに活躍して欲しい。
