奪われぬ魂

 

小坂洋右 著

 

江戸時代から現在までのアイヌ民族がたどってきた苦難の道のりを、アイヌ人側の視点を重視して描いた歴史の書である。

そして著者は、昔のアイヌがたどったように自らも北海道の各地を歩きまわり、その旅を追体験するところが読みどころのひとつとなっている。

 

例えば最近知床で遊覧船が沈没したが、この危険な航路をシーカヤックで回ってみたり、石狩川流域をカヌーで、また富良野岳付近を山スキーで、先人の通った道を実際に体験しその大自然の厳しさを感じ思いを馳せる。

 

そして現在もまだ先住民としてのアイヌが様々な権利が復活できていないことに憤りを覚え、アイヌは住む土地を奪われ、漁をする権利を奪われてきたが魂は奪われてこなかったことに思いを寄せている。

 

特に長老の回顧談であるところのクジラ漁での一晩がかりの死闘の様子が秀逸である。

十数艘もの小舟で次々と銛を打ち込んでもクジラはびくともしない。

一晩中引きずり回されるがついにクジラも力尽きる。

 

 

話は逸れるが。

文中の「アイヌ神謡集」で、アイヌ伝承文化の復権に大きく貢献したアイヌ人女性が紹介されている。

知里幸恵さんという。

そして、その弟で北大教授になった知里真志保(ちり ましほ)さんのことも紹介されている。

 

実はこの真志保さんの奥さんになる萩中美枝さんは、私の母の幼馴染で近所の仲良しだった。

それで私も小さい時から知里真志保さんのことを母から聞いて知っている。

 

結婚前の真志保さんと美枝さんはアポイ岳に登ったとある。

アポイ岳は日高山脈に連なる山で高山植物が豊かで、私も小学校の遠足で登った山なのである。

 

どうして私がこの本を読むことになったのか。

ここにも少なからぬ縁がある。