日本の借金は果たして過剰なのか? | 雑記帳

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【安倍氏が日本経済の現状理解してないのが最大の問題と大前氏】
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/policy/617091/


 久しぶりに経済記事で大笑いしました。まぁ週刊ポストの記事を経済記事と呼んでいいかどうかは別として。
 大前研一氏はミクロ経済だと割と良いこと言ってたりするんですが、ことマクロ経済に関してはもうお話にならないレベルですね。
 
 
 今回の記事で久慈が大笑いしたのは以下の部分。


(以下引用)

 大胆な金融緩和をしようがしまいが、消費税を10%にしようがしまいが、TPP協定に参加しようがしまいが、このままでは日本は2030年を迎えられないと私は見ている。

 なぜなら、それまでに日本は国の借金が対GDP比で300%を超えて、「破断界(持ちこたえられる限界)」を迎え、国債がデフォルトしてハイパーインフレになってしまうからだ。

 国債がデフォルトしたら、国債を大量に保有する銀行が潰れ、個人金融資産が吹き飛んでしまう。ハイパーインフレになったらタンス預金も一気に紙屑になる。そうなる前に貯蓄を消費に向かわせて経済を上向かせることを考えるべきである。

(引用ここまで)

 

 あたま大丈夫だろうかこのひと……
 こんな頓珍漢な意見をよくもまぁ恥ずかしげもなく公言できるなオイ。
 
 「国債がデフォルトしてハイパーインフレ」という時点でもう意味が解らないのですが、100歩譲ってそうなるとして、対応策が「貯蓄を消費に向かわせて経済を上向かせる」という時点でもう完全に意味不明。同じ段落内で結論が矛盾してるってどういうことさ。

 大前氏が言うところの「貯蓄を消費に向かわせる」にはどうすればいいのか。
 結論から先に言うと、銀行が国債を買い、政府がそれにより得たお金で公共事業を民間に発注すればいいんですよ。
 今現在、日本国債をどんな人が買っているかという情報は財務省にあります。
http://www.mof.go.jp/jgbs/publication/debt_management_report/2011/saimu1-1-4.pdf

 PDFですので、以下に所有者の内訳をば。
 
 銀行等  45%
 生損保等 20%
 公的年金 10%
 日本銀行  8%
 年金基金 3.9%
 海外   4.8%
 家計   4.5%
 
 半分近くを、現状で銀行などが買っているんです。
 銀行はわたしたちから預かった預金に対して利子を払わなければいけません。ですから銀行はこの預金で日本国債を買い、国債の利子で預金者への利子を払っているのです。
 つまり「貯蓄を消費に向かわせる」にはどうすればいいかというと、銀行に今以上に国債を買わせればいいんですよ。
 
 では大前氏が言う「国債がデフォルトしてハイパーインフレ」という事態は、今の日本で起こりえるのでしょうか?
 
 先ほど記した国債の所有者を見ると、現在の国債は9割以上が日本国内で消費されています。これはつまり、大前氏やマスコミなんかがよく口にする「国の借金」であるところの国債はそのほとんどが「日本国民からの借金」ということなります。
 では「国債がデフォルト」つまり国債という借金を返せなくなるとはどういう状態を指すのか。これに答えるには「国債とは何か?」という根本的な話になります。


 

Q1 国債って何?
A1 国が発行する金融商品です。



 道路を作ったりだとか、既存のトンネルを整備したりだとか、日本のインフラを整えるために国会では毎年「予算」というものを作り、その年に政府が使うお金を決めます。
 収入が無ければ支出はできません。日本政府は一般企業のように物を売っているわけでは無いため、その収入を「税金」という形で我々日本国民から徴収します。
 予算が税金だけで賄えればいいんですが、今のような不況下では税収は悪くなります。では足りない分をどうするかというと「国債」という「商品」を売って賄うのです。
 国債は「一定の利子を払うから、一定期間金を貸してくれ」という権利を商品として売るものです。一般銀行の定期みたいなもんですね。
 
 余談ですが、マスコミやなんかで国債や公共事業というものがまるで諸悪の根源のように叩かれていますが、税収分しか予算を組まないということになれば道路はボロボロになり、この間のようなメンテナンス不足によるトンネル崩落などということが頻発するでしょう。地方への補助金も払えませんからゴミの回収だってストップするかもしれません。国債や公共事業を否定するということは、我々日本国民の生活レベルを落とせと言っていることと等しいのです。
 
 さて、国債です。
 国債は前述したとおり定期預金みたいなもんですから、毎年一定の利子を購入者に支払う必要があります。また5年後なり10年後なりに満期になったら原本を返却する必要も出てきます。
 この毎月の利子や満期となった原本をどのようにして払うかというと、また新たな国債を発行して賄います。いわゆる自転車操業ですね。


 

Q2 それじゃ永遠に国債という名の借金が増え続けるじゃないか!
A2 その通りですが何か?


  そうです。国債は基本的に何もしなければ増え続けます。なにせ利子も満期分もまた新たな国債で賄うわけですからね。
 現在の日本国債の発行残高は789兆円。毎年30兆円~40兆円ずつ増えています。
 よくマスコミがミスリードに用いるように、これを一般家庭の収支と同様に考えると、もう日本は終わりだという気持ちになってきますよね。
 確かに、一般家庭で「借金の支払いを借金で」みたいな自転車操業になったら、もうその家庭の家計はおしまいです。遠からず破産という道が待っています。
 ですが、国家運営と一般家計を同一に語るのは正直言ってナンセンス。お話にならないミスリードです。なぜなら一般家庭と国家では信用が全く違う。
 
 一般人である久慈光樹が家を買うために銀行に住宅ローンという名目でお金を借りるとします。わたしの年収では、借りられるのはせいぜいが1千万か2千万でしょう。それ以上は与信が通らず借りられません。
 では企業が設備投資のために銀行から融資を受ける場合はどうでしょうか? 社員が何万人もいるような大企業であれば、数十億から数百億は貸してくれるでしょう。
 これは久慈光樹という個人と、企業との信用の差です。数百億を融資しても回収できるという見込みがあるからこそ銀行は融資してくれるのです。
 では人口約1億2千万人の日本国の信用はどうでしょう? 大企業などとは比べ物にならないほどの信用ですよね。
 つまり、絶大なる信用のある日本国では、何百兆円という借金があっても別になんらおかしい話ではないのです。これを一般家計と意図的に混同し、あまつさえ「国民一人当たりの借金いくら」なんてワケの解らん数字遊びで論ずるのはまったくのナンセンス。悪意ある偏向報道です、騙されないようにしてください。

 ですが規模が違うというだけで、借金が増え続けていけばいずれは破綻するのは同じことじゃないかと思ったあなたは鋭いです。いくら日本が絶大なる信用を持っているとはいえ、いずれ破綻する分岐点というものは必ず存在します。
 
 


Q3 やっぱり国債で日本はもう終わりじゃないか!
A3 国債が売れなくなったら終わるでしょうね。その気配はありませんが。




 国債がデフォルト、つまり国債という借金が返せなくなるのはどんな場合でしょうか?
 国債という借金を国債という借金で返している以上、国債が返せなくなるのは国債が売れなくなる時です。国債が売れている間はずっと自転車操業できますから。
 商品の売買価格というものには必ず需要と供給が関係します。需要がある、つまり皆が欲しがり(=需要が高い)希少な商品(=供給が低い)の値段は上がりますし、誰も欲しがらず(=需要が低い)いつでも買える商品(=供給が多い)は捨て値で投げ売りされます。
 この時期にキャベツが高いのは需要に対して供給が少ないからです。これが春を過ぎれば供給が高くなるので値段は下がっていきます。
 金融商品の場合、それ自体の値段は一定です。どこで需要と供給のバランスをとるかというと、利子がそれにあたります。
 つまり日本国債が売れている間は利子は低くなり、売れなくなれば利子が上がるのです。
 今現在の日本国債の金利も財務省にて確認できます。
http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/jgbcm.htm

 10年物の国債で、約0.7%ですね。
 年単位の推移はこちらからファイルをダウンロードできます。
http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/kako.htm

 これを見ると、十年前の平成14年時点での10年物金利は約1.4%です。
 あれあれ? おかしいですね、今は半分になってますよ? それどころか十年前からずーっと下がり続けてますよ?
 
 このように日本国債は需要に比べて供給が低すぎ、どんどん安くなっています。
 つまり、国債の発行額に対して買い手が多すぎるんです。
 海外投資家が買いたくても物が無いんです。ぜんぶ日本国内で売れちゃうから。
 こんな状況で「国債が売れなくなってデフォルトし、日本経済は破綻する!」なんて言われてもファンタジーとしか思えません。十年以上前から国債金利は一貫して下がり続けてるのに、買う人間がいなくなるなんてそんなことありえるわけないじゃないですか。本当に買う人がいなくなるんだったら、金利もっと上がっているでしょうに。

 ちなみに世界一安全と言われているアメリカ国債の金利は約1.7%。
 前にデフォルトしたアイスランドのデフォルト前の金利は約18%です。
 日本国債の金利0.7%というのがいかに低く、デフォルトなどあり得ないこと、そして日本のマスコミがどれだけ偏向報道をしているかということが、よくわかりますね。


 

Q4 でもこのままじゃ借金を返せないよね?
A4 返す必要あるんですか?



 国債を完全にゼロにすると、銀行が潰れます。なにせ現状では国債の約半数を銀行が買っており、その利子で預金者の利子を払っているのです。日本国債の利子は確かに低いですが、それでも一般銀行の預金利子に比べれば高いですから。
 国債発行をゼロにするとなると、いままでそれで食い繋いでいた銀行がまずは潰れるでしょう。もし万が一潰れなかったとしても、政府が貯蓄を吸い上げる手段が無くなるので今以上の凄まじいデフレになるでしょうね。
 先ほど書いたとおり、現在の日本国債はいくらでも買い手がいる状態です。そんな状態の時に国債を発行しないなんていうのは正直ナンセンスだと、わたし個人は思います。
 何せ作れば物が売れる状況です、ガンガン売ればいいじゃないですか。
 これが例えばキャベツなんかだと、売値が下がれば利益が出なくなるので、供給を絞ることは必要です。よく畑でキャベツを潰したりしてますよねトラクターで。しかし国債は別に利益を上げるための商品ではありません。必要な対価さえ確保できればガンガン発行してよい物なのです。
 気をつけなくてはいけないのは、国債の金利の推移。
 金利が極端に上がり始めたら要注意です、それはつまり買い手が少なくなってきたということで、自転車操業ができなくなるサインです。
 でも少なくとも、金利が今のような極端に低い状態の間はどれだけ国債を発行しても何の問題もなく、特に今のようなデフレ下では公共投資をするためにガンガン発行すべきなのです。


 

Q5 デフレと国債はなんか関係あんの?
A5 大いにあります。



 ここ10年ほど、日本は慢性的なデフレーションに苦しめられています。
 デフレとはつまり、お金の価値が上がること。
 逆じゃないの? と思いがちですが、今は日本円の価値が日本国内で上がりすぎている状況なのです。
 例を挙げます。例えば100円の価値を持つ商品があるとします。これがデフレ下だと80円で買えちゃったりします。これはつまり今までは100円出さないと買えなかった商品が80円で買えるということで、1円の価値が上がっていると言うことになります。
 デフレだと物が安くなるので、消費者としては嬉しいことです。ですがそれは同時に給与所得が下がるということで、大きな目で見ると国民は苦しい思いをします。
 先ほどの例で言うと、本来は100円で売れる商品が80円でしか売れないわけですから、物を売っている企業は損をします。会社が潰れないために、その損は社員の給料を低くすることで賄わざるを得ないのです。
 デフレーションの反対はインフレーション、つまりインフレです。
 インフレ下ではお金の価値が下がります。100円の商品が120円で売れるようになり、給与所得もどんどん上がっていきます。
 給与所得がどんどん上がっていくということは、比率で支払う所得税などの税収もどんどん上がっていきます。つまりインフレ下では政府の税収は上がり、逆にデフレ下では下がります。
 安部総裁がインフレターゲットを2%にと言っているのは、世の中をインフレにして税収を上げようとしているわけですね。
 税収が上がればその分を国債で賄う必要が無くなりますから、国債発行額は下がっていきます。逆に税収が少なければ国債発行額は上がっていくのです。
 つまり、今のようなデフレ下で税収が少ない時に、何の対策もなく国債発行額を下げてしまうと、その分、日本国民が享受するサービスの質が低下するということです。

 また、国債を発行するとその約半数を銀行が買います。
 今のような不景気では国民はお金を使わず貯蓄に回しがちです。お金が使われないのでお金の価値はどんどん上がっていき、デフレが進行します。デフレになると給与が下がるので不景気になり、またお金が使われなくなる……まさに悪循環、これが「デフレスパイラル」と言われるものです。
 
 これを打開するにはどうすればいいか。
 いくつか方法はありますが、いちばん簡単なのはお金をじゃんじゃん刷ることです。
 世にお金が出回らないのであれば、お金の全体量を増やしてしまえばいいのです。
 ただこれは諸刃の剣、下手をするとお金の価値が急激に下がりすぎてえらいことになります。
 この状態がいわゆる「ハイパーインフレーション」、お金の額面じゃなく札束の重さで売買するような状態です。
 時は正に世紀末、と北斗の拳の主題歌のようなこの状態を、お金を管理している日本銀行はものすごく恐れています。自分たちの管理責任が問われますからね。
 ただこの日銀の「インフレ恐怖症」はいささかならず行きすぎており、国民が疲弊しようとどうでもいいからデフレを維持、みたいな状態になっています。
 円高だーもう日本の輸出業は終わりだー、みたいなことをマスコミは盛んに言い立てますが、円高になっている大きな要因の一つは、日銀が円を刷らないことです。リーマンショック以降、アメリカも、EUも、もうジャンジャンバリバリ自国通貨を刷りまくりました。それが不況時の特効薬ですからね。でも日本は日銀が病的なインフレ恐怖症に陥ってちっとも円を刷りゃしねえ。だからドルやユーロに対しどんどん円の価値が高くなって、結果として慢性的な円高になっているのです。特にアメリカなんかはそれによりハイパーインフレになどなることなく経済が徐々に回復してきているのを見ると、やはり日銀がおかしいのだと思えます。
 安部総裁が「日銀てめぇいい加減にしろ!」と言いたくなる気持ちも解ろうというものです。

 円を大量に刷れば手っ取り早いのですが、それができない以上、次善の策が必要です。
 お金の絶対量が増やせないのであれば、銀行に眠ったままになっているお金、つまり預金を市場に放出するしかありません。
 一番手っ取り早いのは預金を政府が無条件で取り上げること。預金封鎖してしまうことです。ただこれは法治国家としてあるまじき暴挙、そこまでやらなきゃいけないほどには日本経済は追い詰められてません。
 あくまで穏便に、合法的に、銀行預金を市場に放出させるにはどうすればよいのか?
 そう、政府が国債を発行し銀行に買わせて、そのお金を公共投資の形で市場に放出すればよいのです。
 デフレ期に国債の発行がいかに重要であるのか、お解りいただけたと思います。
 
 
 
 
 最後に、今まで語ってきたことを箇条書きにするとこうです。


 ①デフレ期には消費が冷え込み、市場にお金が出てこない(貯蓄にまわる)
 ②市場に出てこない貯蓄(銀行の預金)を国債で政府が吸い上げる
 ③吸い上げたお金を公共投資という形で市場に放出する
 ④お金が市場で出回ると供給が増えてお金の価値が下がる(インフレになる)
 ⑤インフレになると給与所得が増え、税収が上がる
 ⑥税収が上がれば国債を発行する必要がなくなる
 ⑦更にインフレになるとお金の価値が下がるので、国債という名の借金の返済額も相対的に下がっていく


 このようなサイクルが理想的なのです。
 このサイクルの②と③をまるで諸悪の根源のように叩くことがいかにアホらしいことか。
 このサイクルを無視して「国債が増え続けてるからデフォルトする」と叫ぶことがいかに頭の悪い戯言なのか、お解りいただけたのではないでしょうか。
 今の日本で一番重要なことは、デフレを脱却して適度なインフレ状態とすることです。
 そしてそれが達成できれば国債の新規発行額も減らせるし、今までの国債発行累計額も価値が相対的に下がっていく。
 それをせずして、ただ何の方策もなく「国債を減らせ!」だの「公共投資はバラマキ!」だの叫ぶのは、自らの無知を声高に叫ぶのと同じことなのです。
 
 
 
 
 最後に小噺。
 少し前、韓国で発行部数が最大の新聞社がこんな要旨の記事を配信していました。

「韓国国債の長期利回りは日本を遥かに超えている! とても誇らしいことだ!」

 ……あの国はもうダメだ。