「殿、ご決断見事でした。平伏した者ばかりでした。」
廸の言葉に、掠れた声で「ありがとう」を伝えた。
「この左門も、棟梁の勝手には悩んでおった。気が晴れた。…しかし、あれだけ丈夫なお主が風邪とは…」
「左門、すまぬ。廸や庶にも、繁香殿にも、申し訳が立たぬ。」
「なんの。左門様や奥方様以上に気を張って居られたのですから、今はゆっくりお休みください。」
幼い子供は別室で遊んでいる。とても賑やかで、同時に子供の声が心地好く、安心感をもたらしてくれた。
「奥方様、偶にはお二人でゆっくりなさって下さい。」
庶の配慮であった。側室とは言え、庶とても義章の妻である。本当は傍に居たかろうが、水入らずで過ごさせようという配慮であった。
「殿、ゆっくりお休みください。」
「廸、私は無理をしていたのかな?」
「ふふ。どうされたのですか?」
「賀茂次郎の名を継ぎ、十郎殿や義父上や左門、その他にも橘一族に助けられた恩を還そうとしていたのだろうか。」
「若狭屋敷の者は皆、父上の尽力で臣従して居りますし、若狭の当主は軍事貴族橘一族の長ですから…。まあ、小濱の兵衛様や宮津の伊右衛門様の様に口の悪い、荒々しい方はいらっしゃいますが。」
「ははは。確かに小濱殿や宮津殿は、口は悪いが、優れた衆だな。」
「それに、兄同様でありましたのに、いつの間にか私の心身共に奪って行かれました。」
「私に惚れる何かあったのか?」
「判りませぬ。でも、兄以上の感情を持てる何かが無ければ、他家にも敬遠されるじゃじゃ馬だったでしょうね。」
夫婦の久々の水入らずを過ごしていられる事に、共に幸せを感じている様だった。
咳をすれば、背中を擦り、落ち着かせた。
「薬湯です。苦味は少々強いですが、効きやすいそうです。」
「ありがとう。」
「何かゆっくりするに必要なものはありますか?」
「いや。治ったら、由貴と次郎丸・法師丸と5人で同室で一夜を過ごしたいな。」
「そう致しましょう。そのあとに庶殿と庶丸殿と3人でもお忘れなく。」
「そうしよう。」
「先ずは早く治さねば
