「皆さん、お集まりかな?」
若狭の当主・左門が、居並ぶ老獪な橘一族の主や郎党に話し始める。左門はもちろんの事、面々は緊張の面持ちである。
「殿、お願い致す。」
義章は上座にあって、重い口を開いた。
「これより、源氏宗家たる、六条判官殿より離反致す。」
皆、驚きを隠さない。武家源氏の宗家に連なる家の当主が、離反するとは考えなかった。源氏は一枚岩と感じていたからである。
「殿、余りの驚きに声を上げる者がありませね。それゆえ、某から一言伺いたい。」
小濱兵衛の嫡子、迅悟郎棟啓(じんごろう・むねのり)は、廸と同年の21歳。血気盛んな若武者である。
「迅悟郎、何か。」
「殿は、六条判官殿の下より離反するとなれば、平氏に付かれるのか、或いは独立独歩で行かれるのか、その指針無くば、恐らくは、方々も戸惑いましょう。如何にされるのかお示し下され!」
「承知した。私は、この国の民と共に生きたい。今までは、父・賀茂次郎を策に嵌めた叔父、新羅三郎に恨みを持ち、それでも気持ちを抑えてきた。然るに三郎は黄泉の者となり、それでも呪縛を放とうとしないばかりか、配流の賀茂次郎を追討した。」
論法はともかく、表情は冷静に見えながら怒りが込み上げる姿の判った衆は、皆、黙り込んだ。
「その上、我々には戦の功も認めず、領地をもらえることも無かった。これでは到底承服しかねる。故に離反すると決めた。」
「殿の申し条は今の通り。他に異論や気になることはないか?」
静まり返る。問い質したい事はあるはず。それでも閉口するからには、不安が胸を過るからだ。
「私は、そう決断した。もちろん、行動をして欲しいと思う。だからといって、皆々様を縛る積りはない。各家事情もあるだろう。」
先程の険しい表情は消え失せ、いつもの、どこか頼り無さそうな、それでいて優しさは残した表情となっていた。