冬の夜は、とにかく寒い。
心も、体も、そして懐も。
勝弥を待っても、今日は忙しいらしい。
メールを打っても、電話をしても、全く出てくれない。
繁華街の灯りは、私の周りじゃ届かない。
小さな街灯と行き交う車のヘッドライトだけが、辺りを照らす。
あとは、トタンで覆われた、成人男性向けの本の自動販売機の薄暗い蛍光灯の灯り。
三日前から音信不通の勝弥。
三日前、「好きだよ。」「無理しちゃだめだぞ。」
この二言のメールをくれただけ。
彼を束縛したいんじゃない。
今日は大切な日。
だけどいやな事があって、どうしても会いたい。
もうすぐ「今日」が終わる。
もう会えない...そんな時に着信。勝弥からだ。
「...はい。」
「あ、真衣子?」
「勝弥?今、どこにいるの?」
「どこだと思う?」
想像なんてつかない。ただ、この嬉しい気持ちと頭にきているのと不安と、ごちゃ混ぜで混乱中。
「そんなの良いから。」
少し怒鳴り声に近い声で、電話越しに問い詰める。
「ここだよ。」
それは、電話なんて必要のない距離。
「遅くなってごめんね。」
すぐ後ろ。もう、どうして良いのか解らなくて、パニック状態マックス!
「これ、どうしても買いたくて、彼方此方に行ってたんだ。誕生日おめでとう。」
嬉しくて、悔しくて、言葉にならない。ただ涙で前や勝弥のことが見えなくなってる。
「そんなに高くないけど、真衣子が欲しがっていたから。」
「だからって...三日も連絡を」
「決めていたのに、無かったから。」
「でも、普通の連絡くれたって良いじゃない。」
彼には、それは出来ないのは知っていたけど、どうしても、小さなことのやり取りくらいはして欲しかった。
「メールにしたって必ず...」
顔にも文章にもすぐに表れてくるのが、良い所だし悪い所。
「ありがとう。大事にするね。」
「良いって。反って心配させちゃったんなら、ごめん。」
「ううん。全部吹き飛んだよ。勝弥の気持ちが。私の中のモヤモヤ、全部飛ばしてくれた。ありがと。」
今日、2月11日、私の二十歳の誕生日は、ケーキは無いけど、最高の誕生日になった。
「ありがと。」
ムードの無い場所だけど、感謝の気持ちをこめて、彼の頬に口付けを。