「廸、考えていることがあるのだが。」
「なんとなくではありますが、判って居ります。元服の事で御座いましょう?」
若狭屋敷の義章の寝所で、夫妻はその事を話していた。
「廸、そなたには苦しい選択だが、判ってほしい。」
「いえ、武士の子ならば判って居ります。…それよりも、法師丸の事をお話し下さい。」
「気付いていたのか。我が心中。その通り。法師丸は出家させようと思う。」
「法師丸が納得し、受け入れたならば、私に異存はありません。」
緊張が走る。嫡男次郎丸は元服し、賀茂次郎家を継ぐ。三男庶丸は、母違いの為に廸が勝手に決めることは出来ないが、恐らく同時に元服するだろう。
法師丸も元服し、若狭共々本家を助ける立場で居てくれれば良いはずである。
「廸、出家から10年で還俗させるつもりだ。」
「では学識を高める為?」
「そうだ。法師丸は、当家に連なる軍師の立場になって貰いたいのだ。」
「来年には3人共に16歳。私も30歳となります。そろそろ身を引くべきで…。」
「かように申すな。まだまだ支えてもらわねばならぬ。」
「左様ですね。私もただ由貴の婿殿探しもあります。いつまで経っても、賀茂次郎義章の室であり、若狭の者。子供にはいつまでも母なのです。ただ、元服の話は、子供が遠くなる気がして、寂しゅうなっただけでございます。」
「後は、法師丸に納得してもらわねばならぬな。」