義章は、暫く考え事をしていた。
繁香入道(若狭満繁)や左門満宇にも相談出来ないと思っていた。
廸と庶が傍にいたが、特に何かしら相談してはならない気でいた。
「殿、どうなされました?先日より気難しい貌(かお)をされて居られますが。」
「廸様の申される通りでございます。もしお困りなら、私共にお話し下さい。」
二人は、義章の正室・側室の違いを超え、相談役になりたいと本気で考えている。それでも義章自身で考えておかねばならない、難しい話である。
「お前たちは、次郎丸も法師丸も庶丸も分け隔てなく育ててくれている。疲れているだろう。今は休んでくれ。」
「殿が気難しくされたり、怒ったような顔をされては、子供が不安がります。家族をお考え下さるなら、私たちにお話し下さい。」
「男(おのこ)たちは、怯えて居りますよ。」
素直な義章は、直ぐに相談を始めた。
「すまなかった。誰にも相談してはならぬ...そう思っていたのだ。... ...そうだな。家族を心配させるは、最もしてはならぬ事だな。」
その後、越後の郎党・蒲原四郎五郎からの書簡に於いて、高齢の父・義綱が20年以上前の事で、宗家・六条判官為義から追討を受けて、配流地の佐渡で自害したと書かれていたことを告白する。
「宗家に従う私たちさえも、仮想の敵なのですか?」
廸は、家政に口出しをすべきではないと承知の上で、口にした。
「私が義綱の子であることは、宗家は知らぬ。それに、宗家にとっては、いくら恨んでも足りぬだろう。故の追討なのだと思う。」
「しかし、あれは坂東の義光どのと快譽どのの所業でありましょう?何ゆえ義光どのを追討されませぬ!?」
「宗家の為義どのとて、辛い立場だろう。父は謀反人として討伐され、養父が暗殺によって殺されたのだ。」
「私は、廸様のような学はありませぬ。しかし、私怨は禁物と感じます。」
「庶、その通りだ。だが、どうする手段もない。」
「もし、お考え纏まっていれば、一族に話してみてもよろしいのでは?」