7日後、満繁の書簡を読み、周章てて朽木谷の若狭屋敷に、若狭・丹後・近江の橘一族が集まった。
若狭の遠縁、小濱兵衛や丹後の宮津伊右衛門も周章てて集まった中である。
若狭の主・源義章は、広間にて三々五々集まった衆に名乗る。
「皆々様、初めてご尊顔を拝しまする。それがしは、賀茂次郎源義綱の末子にして、先の十郎綱満どのと太郎満繁どのに養われた、源義章と申します。」
平伏する者は少ない。父・源義綱は佐渡に配流の身。
おまけに、平氏や源氏の宗家・為義に近いものが多くいる。謂わば針の莚に座っているようなものだ。
空気がざわつく。
「鎮まれ!」
発したのは、先程まで弱々しい姿を見せていた満繁だった。
「最後まで義章様の発言を聴け!」
「実は、その満繁どのは、本日を以て隠居する意を固めました。よって本日より若狭家当主は、嫡子の左門満宇どのでござる。」
「さよう。義章様と左門からは、強く慰留されたが、決意を固めていた。よって、それがしはただの隠居となる!また、左門満宇の嫡子である乙輪丸の元服の式を共に行う!」
威厳ある満繁の発言に、橘一族は黙った。小濱や宮津も、満宇の発言を待ち、静まった。
しばらくすると、前髪の男児が直垂(ひたたれ)姿で現れる。
「橘一族を以て、元服の証人とする。」
満宇が剃刀で前髪を落とし、加冠を満繁が務めた。
「これよりは、若狭四郎橘満英(わかさしろう・たちばなのみつひで)と名乗るべし。」
母の柾や叔母の廸は、元服の式に参加は出来ない。だが、料理で喜びを表現していた。
「これより隠居の私は、入道繁香と名乗る!また、四郎満英の名は、当主満宇と義章様と私を以て決めた名である。英知に満ちた者となる様にという意を込めてある!」
繁香の申し上に橘一族は、ただ平伏するのだった。
「この満英、義章様・当主・繁香入道どのに感謝致します。益々のご鞭撻をお願い申し上げまする。」
出席の一族に対しても
「若輩なれど、若狭の満英として尽力致します。一族の皆々様にはご不満も有りましょうが、時に優しく、時に厳しく、ご鞭撻くださいますよう、心よりお願い申し上げます。」