令和2年1月24日(金)

 

去る15日、海上自衛隊最新の音響測定艦「あき」が進水しました。

現在、海自の音響測定艦として「はりま」と「ひびき」の2艦があります。(どちらも呉基地所属なので、帰港していればアレイからすこじまで見ることができます。)「はりま」が平成3年、「ひびき」が平成4年の就航ですから、29年ぶりに新艦となります。

 

今回進水した「あき」は「安芸灘」から命名されました。広町の安芸灘に面した海辺に住んでいる私としては、なんとも嬉しい艦名ではあります。今後艤装や各種試験を行い、1年後の3月に呉基地に就役する予定です。

 

音響測定艦は自衛隊の中でもあまり情報が公開されておらず、とりわけ情報の少ない艦のひとつと言えます。どんな働きをする艦なのでしょうか。

 

「音響測定艦」は名前の通り「音響を測定する艦」です。測定するのは主に潜水艦の音で、これを集めてデータ化します。

 

水上艦であれば、外形からある程度タイプを特定でき、艦番号や艦名が分かれば個艦識別まで可能です。しかし、潜水艦の場合は潜航しているとその姿を捉えることができず、個艦特定ができません。

 

ではどうするか?収集した音と艦種や艦名が紐づけられたデータを蓄積し、これに拾った音を照らし合わせて識別する、という手段をとっています。

潜水艦を含む船のスクリューは同じタイプであっても造船所や加工機械の差によって、微妙に形状が異なります。その差が識別できらば、姿の見えない潜水艦であっても個艦の特定が可能となります。

 

艦船ごとの音の違いは、人間の声紋に例えて「音紋」と呼びます。音紋を収集するために音響測定艦は日本の周辺海域を動き回っているのです。

その際、自艦のエンジンがうるさくては任務に支障がでますので、主機関であるディーゼルエンジンを高い場所に配置し、そのエンジンで発電機を回し、得られた電気でスクリュー直結のモーターを動かしています。

「音紋」を収集するための「武器」は、艦尾から垂らす長大な曳航ソナーです。ソナー自身の長さは約800mあり、更にこれを曳航するためのケーブルは最大2、000mあります。これだけ長いのは、自艦の推進音の影響を最大限減らすためです。

音響測定艦のもう一つの特徴は、双胴船型の構造をしていることです。これは、二つある胴体(船体)の上に各種構造物が載った状態で、船のスクリューも艦首の錨も、双方の胴体(両舷)に一基ずつあります。これにより、波浪の影響を受け難く、甲板面積を大きくとれるという長所が得られます。

音響測定艦の性能は秘密で、任務の詳細も不明と、潜水艦やイージス艦以上に厚いベールに覆われています。また、一度出航すると任務が長期化するため、居住性に配慮されており、急病人搬送のためのヘリコプター発着用の飛行甲板が設置されています。一方で、戦闘艦艇ではないので、武器は装備していません。

 

我が国のような高性能音響測定艦は、アメリカを含め他国ではまだ少なく、どんな護衛艦や潜水艦よりも、中国やロシアが警戒しているのは、我が国の音響測定艦だという話もあり、目立たないけどとても重要な艦艇と云えます。

「あき」基本情報・要目

建造所:三井E&S造船 玉野艦船工場

建造費:226億円(最新潜水艦560億円の半額以下)

就役:2021年3月予定(現在艤装中)

基準排水量:2,850トン

全長:67.0m 最大幅:29.9m 深さ:15.3m

機関:ディーゼル・エレクトリック方式

主機:ディーゼルエンジン×4基

推進:スクリュープロペラ×2軸

出力:3、000PS

速力:11ノット(20.4km/h)

乗員:約40人