この光景はなんだ。地獄か?
今まで戦場はいくらでも見てきた。
そして、負傷者の山もいくらでも見た。
今回は戦場でもなく、負傷者の数もそれほどではない。
けどこの、重たい空気はなんだ。
負の空気が私の体を突き刺すように支配していく。
私の心が張り裂けそうだった。
…いけない。ここで萎縮してどうする。
私は…司祭なんだ。
気合を入れなおす為、両手でぱぁん、と頬を張り手する。
…大丈夫。まずは生きてる人の救助を―
そう言い聞かせながら後ろを振り返ると、目の前には…
……ヴァネッサ?
腹からおびただしい程の出血をして倒れている自分の親友の姿が。
今朝、元気に屯所から飛び出して行ったのに。
お土産持ってくるから、って冗談っぽく笑いかけてくれたのに…。
あ…ブリジット。無事…だったんだ。…良かった…。
喋らないで。…今魔法を…。
私は意識を集中させようとして目を瞑る。所が、弱っているその右腕が私の手を握り、
魔法をさえぎった。私は集中が途切れ、思わず手の持ち主、ヴァネッサの方へ
顔を向けた。ヴァネッサが力無く笑いながら首を横に振る。
駄目だよ…ブリジット。この体はもう助からない。…自分でもわかるよ…。
何を言ってるの?今すぐに魔法をかければ間に合うわ。
ヴァネッサはその手を離さない。
私はいいから、もっと助かりそうな人を助けてあげて…。
あんたの言うことなんか聞かない!ほら、もう喋んないで!!
最後にブリジットに会えて良かった……あぁ、なんでだろ…。眠くなってきた…。
黙ってて!お願いだから!
ありがとう…先に向こうに行ってるね…。レイクリス様、美形だといいな…。
私の手を握っていた手から力と生気が抜けていくのを感じた。
そしてその瞬間、親友を失ったことを知った。
戦場ではよくあること、戦場ではよくあること、戦場…で…は…
自分に言い聞かせていたけれど…涙が止まらない。
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私はこの場所のさらに奥、被害が激しい場所へと急いだ。
手遅れになる前に少しでも多くの仲間を救いたかったから。
ところが、目の前に広がるのはついさっきまで元気な顔を
見せていた後輩達の、目も当てられない姿。中には原型を
留めていない子達も…。
胸が締め付けられる…。
そのような状況で私が諦めかけていると、
後ろで
がさっ
急に近くで物音がした。
私はハッとして絶望的な気分を振り払おうと首を横に振る。
いつまでも感傷に浸っている場合じゃない。早く救出へ…
音のした方へ振り向くと、やはり大怪我をして倒れている男がいた。
ヴァネッサの致命傷ほどではないものの、放っておいては危険に
変わりない状況だった。
私は急いでその男―司祭だった―に駆け寄る…。
大丈夫。これならまだ間に合う…。
私は目を閉じる。精神を落ち着かせ、自分の両手に力が集まるようにイメージする。
手が暖かくなってきた所で、その微妙に光が灯っている両手を傷口に、空中で撫でるように当てていく。
服の上からではあったが、傷口が塞がっていく手ごたえを感じる。
…アステル、私の声が聞こえますか?
治療魔法中は私は目を閉じる癖があるので、この男―アステル―の意識があるのか
どうかは確認することができない。意識があるのなら、それが途切れないように声を
かけ続けなければ。
しばらくして、開いていた傷口を全部閉じた。だが、この場にそのまま放っておくのも
危険であった。そして、本人の意識があるかどうかがわからない。
…とりあえず、ここからある程度安全なところへ…。
私はアステルを肩に担ぎ上げた。多少乱暴ではあったが、傷口が開くことはないだろう。
これ以上犠牲は絶対増やさない…!
キャンプの方へ歩いていく途中でヴァネッサの亡き骸の横を通った。
綺麗な寝顔で、死んでいるとは思えないほど安らかな顔で横たわっている。
なんか今にも「あ~良く寝た」って起きてきそうな。
…さようなら。ヴァネッサ…。
目の前にキャンプが見えてきた。そこで安静にしていればアステルは助かるだろう。
キャンプに待機していた司祭達にアステルの身を預け、私は再び向かう。
絶望の中から一つでも多くの希望を拾う為に…。
ブリジット=バルテスの日記より
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某所のイラストから完全に自分のイメージで書いてみました。
以前頂いた「2月の悲劇」の資料がどこか行ってしまい…。
なるべく本家の設定にそぐわないように書いたつもりです。
ってか勝手に捏造してしまい本当ごめんなさい…。
・10日追記
正式事件名は「2月崩壊」で。オフィシャルではありませんけど。