『家路』 | 釘師物語

『家路』

ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調『新世界より』 第2楽章『家路』



真夜中 九州道を南下した

真っ暗闇の中
ザーザーと降り続く雨
更に更に 闇へといざなうかのような雨


途中高速道路は
23個もあるトンネル群を通る

急流くだりで有名な球磨川沿い
険しい山々
霧か 朝靄か

真っ暗な 闇が
その色を 薄める
雨も小さくなった

とあるトンネルを抜けたとき
山の稜線がおぼろげに見えた

次のトンネルに入るわずかな距離
気あらしのような
白い霞が
すり抜ける

深い深い 闇の底から
一気に 天上へと上がって行く

水墨画のような山々の中を
上へ 上へと
見えるのは
濃い黒と 淡い黒

車の音が聞こえない
タイヤが地面についていないのかも知れない

何かに引き寄せられるかのごとく
車は上がる

幾重にも重なる 急峻な稜線と 白い霞
幻想的な風景を目の当たりにして
ああ もうここは違うんだな と思う


空は 白み
雨はすっかり 追うのをやめた
先を走る車も見えないような 濃い霧が
すっかり 上に居ることを知らせてくれる


熊本から宮崎に入る
加久籐トンネル
長い 長い
九州で2番目に長いトンネル

そこを抜けると・・・

ああ なんという光景だ
正面には 緑いっぱいの えびのの平野が広がる
奥には 雄大な霧島の山々が 静かに迎えてくれる
左から まぶしい陽が差しこみ
朝靄の 白を浮き立たせる


ふと 右を見る

こんな虹 見たことない!
視野の中に収まりきれない!

大きな 大きな

そして

きれいな きれいな 虹

赤、橙、黄、緑、青、藍、紫
きらきら光る七色が
なだらかな峰の前にあった

まるで 天上に降り立った気分だ



そうか

そうなんだ

大好きなお母さん お父さんが眠る街に近づいて
やっと やっと
心の 安らぎを得られたんだね

ありがとう

よかったね