こんばんは、久下恭平です。
電車での事をお話します。
帰宅ラッシュ時に乗り込んだ電車はサラリーマンや学生が多い。いつものことです。
目の前の学生が降りた事により運良く座れたことに、わずかな幸せを感じていました。
僕の隣は可愛らしいおばあちゃん。
社内の心地よい暖房なのか、買い物疲れなのかは分かりかねるが、すやすやと眠っていることは、まず間違いない。
慌ただしい人混みの中で、おばあちゃんの隣は時間がゆっくり流れているようにも感じました。
そのまま2つ程駅を通過。
次の停車駅は電車の待ち合わせにより、乗り降りが激しくなる。これもいつものこと。
案の定、サラリーマンや学生を含む大勢の人が下車。ものの数十秒で入れ違いで入ってくる乗客。再び社内は埋め尽くされ、元の景色を取り戻した。
ドアは閉まることを恐れているかの如く、乗客を挟まないよう何度も開閉している。
すると、隣のおばあちゃんが目を擦り、重たい瞼を開けた。そして薄目でホームに提示された停車駅の名前を確認しているようだ。
「ビクッ」
おばあちゃんが跳ねた。
誰もが、いや、少なくとも周囲の数名は、このおばあちゃんがどうやら下車すべく駅らしいことに感づいた。
するとおばあちゃん
「降りっ………」
言い切る間もなくドアが勇気を取り戻したらしい。無情にもドアは閉まり始めた。
おばあちゃんは続けた
「降りっ………クスは残念だったわねぇ………………ねぇ?」
…………
………………
…ねぇ?とおっしゃいました…か?
やめておくれよおばあちゃん。
そうです。行き場の無い言葉の矛先を僕に向けてきたのです。
そのくらい軽い会釈で返してあげられれば良かったのだ。臨機応変に対応する能力は備わっているはずだ。普段の僕ならそのくらいお茶のこさいさいだ。
しかし、おばあちゃんの「降ります!!」と言い切れなかったが為に寝起きの頭をフル稼働させて発した「降りっクス(オリックス)」が脳裏にこびりついて、会釈すら、笑いを堪えることすら出来ず、
その結果それまで触ってもいなかった真っ暗な携帯画面を見つめて笑う変な男を演じるはめになったのだ。
「降りっクスは残念だったわねぇ」
ほんと、残念だった。
久下恭平
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