※妄想です。



















あの嵐の夜

あれが転機だったと。


誰も悪くない。

想いが交差して、すれ違っていった結果だ。












陸で出会った彼らのことを、ニノと会ったら話してみようか。

なんて、少しだけいつもと違う出来事にドキドキして海の底に帰っていった。


海の上に散らばった木片の多くは潮に流されていったものの、船の重い装飾品とかが海底に沈む。

海には本来存在しないそれらを、興味津々で仲間たちが眺めたり取り合ったり。

嵐の後のいつもの姿。


その中に見慣れた姿がない。


「…?」


いつも誰よりも陸の物に飛びついてるはずなのに。

陸への興味と憧れをいつだって隠さないから、年寄りたちに年中説教されてるヤツ。

それが居ない。


妙な気がして探す。

少し離れた珊瑚に座っていた。

いつも元気に泳いでいるのに。

ぼんやり珊瑚の上に尾びれを乗せて、見上げている。

その視線は海の上。



「…どした?」


「ねぇ、さとし」


「うん」



陸ってどんなとこ



口グセのように言う、いつもの言葉。

なのに、今は、どうして胸が騒ぐ。



尾びれだとさ

自慢だけど

大好きだけど

大切だけど

陸に上がれないよね



ざわめくからだの奥。

いつもと違う。

同じ言葉を目の前のやつからは何度も聞いた。

だけど、違う。

なにが。



「さとしさ?

いつも会うあのコとさ、陸で会いたくなったこと、ない?」



どくり


ない。


そう言おう、と。

言うだけ。

口を開いて。



ない。


…ウソだ。


言えない。

尋ねたこともある。

海の底の底、複雑に入り組んだ岩場の奥に住んでる魔女にひっそりと。


だけど、その方法は後戻りができない。

今までのことを捨てて、海での全てを諦めなくちゃならない。


天秤に図った世界と世界。

その時はどっちも選べなくて、記憶の中に閉じ込めた。

モヤッとする心を見ないふりして。




「…りく、は」


「ごめん、忘れて」



ヒラリ

尾びれを揺らして、目の前からいなくなった。


いなくなった。


引き止めればよかったんだろうか。

もっと深く話を聞けばよかったんだろうか。

相談に変えればよかったのか。




そのこは、いなくなった。

全てを捨てて。





*****

ちょっと暗い