※妄想です。

観察は続く



















とりとめもなく会話をしながら、彼女がケーキを食べているのを眺めるでもなく目に写す。


うん。

そんな表現できてしまう光景は普通に恋人っぽいよね。

端から見ればごく普通のカップル。

中身はVSで戦ってるんだけど。


それはそれとして。

とりとめもない、と思ってるのは俺だけなのかもしれないな。

ケーキを食べて俺を放置しつつ、可愛いカノジョのような顔をしてお皿の向こうからこちらの観察を怠らない。

油断ならないよねぇ。


彼女にとって、俺は異質な存在。

己の聖域であるテリトリーを侵食しようとするエネミー。


それでも俺の事を理解しようとしてくれる姿勢を示す彼女には、尊敬の念も湧くというものだ。





彼女は聡明だ。

穏やかそうな顔して、相手をしっかりと観察している。

偏見なのはわかってるんだけど。

女の子にありがちな恋愛脳というか、感情的になることもなく、注意深く自分にとって敵か無害かを見定める。


敵か

そうでないか


自分と半身にとって。


「…ハードルたかーい」


小さく呟いた言葉は、彼女も思考中で拾われなかったらしい。








「…また追加かぁ」



彼女もまた呟いた。

なにが。

と思うけど、彼女の呟きはきっとあのひとの何か。

でもって、対面の俺。


だって今、俺たちが向き合ってる理由はそれだけだから。

そうだ。

彼はお昼ごはんあるって言ってた。


彼の事を思い浮かべるだけで胸の奥が暖かくなるような気がする。

確証めいた言葉をもらえたわけじゃないのにな。

本当に受け入れてもらえるかは、これからの努力次第だ。


だけど、今は考えるだけで幸せ。

こんなにお手軽な人間だったのか、俺って。

それとも人間って、諦めない恋ってもんがそうさせるのか。

知らなかったなぁ。






「あんた惚れっぽいの?」


うん、双子。同じこと聞かれたね。

俺そんなに軽く見えるのかなぁ?



「惚れやすいっていうのは別に悪いことじゃないけど、浮気性なイメージあるわよ。私的に」


「浮気はない!」



聞き流してたわじゃないけど、あんまりな単語が彼女から放たれた。

反射的に強く返してしまったら、彼女の目が大きく開かれた。


しまった。


もっとソフトに返せるはずだろう、俺。

我に返って内心慌ててしまった。


彼女は素直に謝る。

驚いた彼女の本当にすまなそうに眉を下げる顔は彼とかぶる。

まだそんな顔をみたことないはずなのに。


想像と妄想がとめどなく湧く。

まだ確約してるわけじゃないけど、拒否もされてない。

だからかな。

油断してたつもりはなかったんだけど。




告白した。


そうだ。


うん、告白したんだよ俺。


ずっと


ずっと、隠してきたのに。


自分の気持ちを伝えるなんてこと、一生、それこそ死ぬまでありえない事だと思ってた。


誰にも気がつかれないように

暴かれないように

ヒトの群れの中に紛れるように。



油断したつもりはなかったのに。










「二宮」


「うん?」


「あんた、なんでそんなに警戒心だけで生きてるの?」




今、

なんで暴くんだよ。




*****

ナチュラル