※妄想です。
あわあわ















「…あの?なにか」


はっ

げ、現実か、これは。
いや今、目の前の彼は喋ったよ。
自分の手にはリードが握られてるじゃないか。
その先にはいるだろう。
うちの子が。

…あれ?




「あ、もしかして」

「え、は?」

「うちの犬がそちらに何かご迷惑を?
いたずらでもしてしまいましたか?
すみません、ちょっと目を離していました」

「いいいいいえいえいえいえっっ!!
むしろうちの子、が、愛想があんまり…なので唸るか吠えるかもしれません」

「そ、それで挨拶だけでも、っ…て」


目の前の「かずくん」が視線を俺の脇に移し、足元にいる柴犬を見た。

見られてる、かずくん。
見つめている「かずくん」。

なんだ、これ。
現実なのか。





「可愛いですね。柴ですか?」

「あ、はい!」

「なんか妙に親近感。変だな」


目の前の「かずくん」、いや違う。
だけど。

笑って、もう一度かずくんに視線を落とすひと。
そうするとメガネのせいか、どこか硬質な雰囲気なのが少し和らぐ。


…にしても。

メガネ越しだけど、何度みても、確かにかずくんと同じ顔。
こんなことってあるのか。



「うちの犬レトリーバーなんですが、自分が大きいことを忘れてはしゃいでしまうところかあって。
やたら懐っこいんで柴犬くんに近寄るかもしれませんが、嫌がることはしないはずです。
よければ遊んでやってください」



…彼はとても冷静に話すひとだった。

かずくん、こんな喋り方するかな…?



「…すみません、座ったままで。
連れが寝てしまってるので失礼します」

「あ、気づかなくて。
こちらこそ、すみません」


よく見ると彼の肩にもたれ掛かって眠ってるらしきひとが。
だいぶ頭が下がっているから顔は見えないけど、よく寝てるみたい。

おぉっと、失礼しました。
これは早く離れなくては。


「うちのにはお気にならさず」

「ありがとうございます。
うちのも放しますね」


ペコリと頭を下げられ、俺たちも下げて別のベンチに戻っていく。




「………かずくん」

彼は君の兄弟かな…?
もしかしてドッペルゲンガー。
いや、犬と人間だけど。

けども、うちのこたちは。




「…あのひと、指輪してたね」


彼の左手の薬指には細いリングが確かにあった。
それは俺もなんとなく、目に入った。

ならば。

メガネの彼は確かに現実にこの世の人で。
自分たちと同じように生きて生活してる人なのだ。




「でも、似すぎ」


こわいくらい。






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ゲームのための
ブルーライトカットメガネ常備