※妄想です。
ニノ誕続き
サラリーマンと珈琲屋さん


おーのさんハピバ!













「今日はマリオ」

「ヒゲオヤジで楽しいか?」

「いーじゃん。桃の姫の方がいい?」

「…覚えてないからまたにして」

「やった!
マリオシリーズでコンプリ目指そ」

「うぇぇぇ」


今日は朝から近所の珈琲店におしかける。
日曜日の朝イチは他にお客もたいしていないから、マスターを独り占めできる少ないチャンスなんだ。

ここのいい香りのコーヒーはなんとなく
「コーヒー」じゃなくて「珈琲」って感じ。
ほんと、なんとなく印象だけどさ。



入ってきて早々に今日のラテアートをリクエスト。
自分的に指定席にしてるカウンターに腰かければ、棚からカップを取り出し準備を始めるマスターの姿にワクワクだ。

描くところを見られるのはあんまり好きじゃないらしいけど、俺は楽しくていっつもガン見してる。


自宅や職場で淹れるコーヒーはインスタントでブラック。
甘いものは嫌いじゃないけど特に好物でもないから、食べるのも飲むのも、いつもここでだけ。

甘いケーキはここでしか食べない。

6月の某日に出されたケーキに心奪われ、あれからずっと。







「ん?」


カウンター越しに見えるキッチンというのか作業スペースというのか。
その片隅に綺麗にラッピングされた袋やら箱やらがいくつか見えた。

どうみても業務用じゃない。
統一性がないから、販売用でもなさそう。



「おーのさ…」



アート中なのをうっかり忘れて、声をかけようとした。
そしたらマスターの手の中のカップの中。


「おお…お見事」

「初めてだけど、けっこう上手くいったんじゃね」

「え、初めて?えーすごいよ!」

「んふふ」


どうぞ
出されたカップの表面には、見覚えのあるヒゲオヤジのどや顔が。
かぶった帽子にはMがしっかり。

これは撮らねば。
残さねば。
別にSNSにアップしたりはしないけどね。
そもそもやってないし。
おーのさんが俺のリクエストに応じてくれた大事な作品だ。





モーニングを注文して、平日にはありえない、のんびりした午前中。
ラテのヒゲオヤジと目が合いながらカップに口をつけるのもなかなかシュールで笑ってしまう。

カウンターの向こうではマスターがゆったり皿を洗ってたり、ポツリポツリと現れるお客さんの注文を受けたりしていた。


一番乗りの俺より後から来たはずのお客さんが帰っていっても、俺はダラダラのんびり。
マスターも放っといてくれるから、たまに珈琲のおかわりしたり置いてある新聞を読んだり。

心休まる大切で大好きな時間。
おもいっきり満喫していた。


新聞も飽きて顔をあげれば、視線の先にお客さんらしい女の子とマスターがなんか話してるのが見えた。


「ん?」


マスターの困った顔と押し問答のような二人の手と手。
結局、女の子は笑顔で帰り、マスターの手には綺麗な紙袋が残されていた。


「おーのさん、どーしたの?」

「んー。貰っちゃった」

「…なにを?」

「なんだろね。
お返しいらないとは皆さん言ってくれるけど、そういうわけにはなぁ」

「なんでまた…」

「誕プレだって」




…………………なんですと?




「おーのさん誕生日なの!?」


つい叫んだ俺の声に他のお客さんがビックリして注目されたけど、そんなことはどーでもいい!
今なんて言いましたこのひと!


「実際は明日だけどなー」

「11月26日…?」

「うん」


じゃあ、じゃあ!
カウンターの中に見えた統一性のないラッピングの山はプレゼントってことか!

なんということだ。
俺の好きな人はめっちゃくちゃモテるひとだった。



うーんうーんうーん

今から何か買いにいかねば。
可愛らしく着飾った女の子たちに負けないものを用意しなければ。
ただでさえ男というマイナス地点発なんだから、おーのさんの心をがっちり掴めるものを。

…なんだろう。

釣りが趣味、というのは聞いたことがある。
しかし俺は興味がないから釣り用品を買いに行ったって何を選べばいいのかもわからない。
それに、付け焼き刃の素人が買ったものなんて使えないだろうしなぁ。


「…あのな」

「なに!?」

「誕生日を知ったからってニノまでプレゼントとか寄越さなくていいからな?
むしろやめて」


なんということだ。
釘をさされてしまった。
受け取り拒否だ。


「ニノ、いっつも来てくれるじゃん。
それで十分だから」


…それじゃ俺が困る。
だって常連客の枠から出られないじゃないの。
プラベなお付き合いどころか、特別中の特別になりたいのに足りんでしょうが。


「ほんとに受け取らない?」

「珈琲飲みに来てくれる方が嬉しい」


くっ

こんなに笑顔で言われたら無理にプレゼント押し付けるなんて出来ない。


「…わかりました。
ならば俺からは他のひとに負けない絶対負けないものを進呈いたします」

「だからー」

「愛してる」

「…」

「誰にも負けない自負ありますからね!
ニノちゃんを差し上げます」

「………………えー」


うむ。
なかなか素晴らしい顔をしてくれた。
目が点とはこうか。


「明日また来ますからー」


じゃあねー
って店を出た。

さて、そうは言っても何かプレゼント買いに行かねば。
邪魔にならないかつ驚かせるもの。
なにしようかなぁ。








翌月曜日
なにがなんでも定時で上がり、閉店直前の珈琲店に滑り込む。

俺の顔を見ないで黙々とラテアートを作るおーのさん。
今日はリクエストしてないから、おまかせだ。
出されたカップの中身は。



「…………もう!」






矢が刺さったハートなんて。
これキューピッドの矢だって解釈するからね!?





*****
何気にこの設定気に入ってた
雑なカップはするーして…
取っ手がなかったことに後で気がついた