※妄想です。

ニノはぴば
長くてゴメンなさい













「またぁ?」

「ホント続かないねえ」

「理想が高すぎるんだろ」

飲み会のお誘いが来たから顔を出したら、なぜか彼らはもう俺がカノジョと別れたことを知っていた。

付き合い長いと面倒だわー。



「理想ねえ…」

別に高くないと思うんだけどな。
好みはあるけど拘りはないし、べつに手料理を希望したりもしない。
作ってくれたら最大限の感謝はしますよ、当然じゃない。

「特に要望もない。
縛りつけたりしない。
会えば希望を目一杯叶えたいってしてますけど」

何がいけないんだ。
むしろ束縛とは縁遠い理想的な彼氏じゃない?

「そこがダメなんじゃね」

「なんでよ」

「相手からしたら少しは我儘言ってほしいんじゃない?」

「主張ばっかして喧嘩になったらヤじゃん」

「そこを探ってお互い譲歩するところを探すのがいいんじゃないの」

「…それ実践してから言ってます?」

「「「うっっ」」」

「俺ばっか悪く言われるのは心外ですぅ」


せっかくの誕生日前夜。
よろしくない話題で暗くなるのはイヤだから無し無し。





終電気にせず飲もうぜー!
って連絡が入ったのは夕方もいいところだった。

土曜日の夕方。
翌日の日曜日までゲーム三昧しようとした計画は、親友たちによって頓挫された。

無視したろ
と思ったんだけどね。
誕生日おごってやるー!
なんて言われたら、行かないわけにはいかないでしょう。

一年に一回の、気恥ずかしくもくすぐったい1日だ。



ま、そんな醜聞にもなるようなならないような話は掘り下げる必要もない。
彼女とは合わなかった。
それだけだ。

親友どももわかってる。
ただその場のネタとしては突っ込みやすい題材なだけ。

ほら。
もう話題にものぼらない。
あとは楽しく美味しく雰囲気を堪能するだけ。

ありがとね。
congratulation 俺。










チリン

「いらっしゃいませー」

あ、いた。

「あれ日曜日なのに早いね。
まだモーニングの時間だよ」

「あー。寝てないもんでー」

「え?」


日付がかわり、おめでとう言われたら、その時の店の店長さんらしき人が聞こえていたらしくて、オススメ一品奢ってくれた。
そのまま盛り上がって、始発すぎてもなんだかんだと色々ハシゴしてずーっと四人で飲んでた。

土曜日からの日曜日だから出来た荒業だ。
駅で解散した全員、見事にハイテンションだった。

あー。楽しかった。



まともに寝てなくて、日差しが曇りって恩恵は誕生日だからだと思うことにした。
ピーカンだったら溶けてそう。


電車でゆらゆら帰宅。
乗り過ごすのが楽しいなんてこんな時だけだ。
仕事帰りじゃこうは思わない。

回りはそんなのがいて迷惑だったかもしれないけどね。
ごめんなさいね。
お誕生日なのよ、俺。




自宅最寄り駅についた時はもう朝8時だった。
どんだけタラタラ歩いてたんだ。
びっくりしたわ。


日曜日の静かな遅い朝。
帰り道にはひとつカフェがある。
そこに寄るのは最近のお気に入り。


「おはようございまーす」

「寝てないって…うわ」

「お客にそんな態度よくないですよぅ」

「他に客いないからいーんです。
ほれ水のめ」

「閑古鳥ぃ」

「日曜日の朝なんてこんなもんだわ」


近所の小さな珈琲屋さん。
いつからあったのか知らない。

ゲーム疲れで気分転換に入ってみたら、なんかやたら美味しくて。
以来常連になった。
たぶん常連。

珈琲を淹れてくれるマスターは年齢不詳。
童顔で年下にも見えるけど、聞いたら年上だった。

そう聞いたら、初めはどこか幼く見えたのんびりとした動きも、年上のゆったりに見えてくるから不思議なもんだ。


時間が止まったようなセピア色の店内。
色に似合う、穏やかなマスターの静かな流れるような所作。

ゲームも、仕事も、疲れた時はここにくる。
何もかもが癒されていく。


「はあ…」

「なんか食べる?」

「んにゃ。朝まで飲んでたから腹は減ってない」

「朝までかぁ若いなー」

「あんま歳かわんないでしょ」

「おっさんだよ」

「じーちゃんのまちがいじゃねぇのか」

「ならお前もじーちゃんだな」

「おー」


目の前に置かれた、マスター厳選ブレンド。
ふらふらの呼吸が珈琲に変わっていく。

なんか、いい誕生日。

親友たちに祝われ、聞き上手なマスターが淹れてくれたお気に入りの珈琲でリラックス。
うちに帰ったら気持ちよく眠れそう。


「俺ねぇ」

「ん」

「誕生日なのー」

「今日?ニノの?」

「そー。んで奢ってもらったんだー」

「そっか」

「そーなのー。おーのさんもお祝いしてー」

「自分から言うことかよ」


だって言わないと知らないじゃん。
気持ちよく寝るには、気持ちよくなれるおーのさんの声で締めさせてよ。

くすくす笑う声。
カウンターには3つしかない席。
その真ん中で突っ伏した俺の耳に心地よく響く。


…ああ、そうだ。

別れたカノジョ。
あのこからはこんな居心地のよさは感じたことなかった。
聞いているだけで満ち足りるような声じゃなかった。
さよならで当たり前だった。



「俺ねぇ…おーのさん好き」

「へえ?」

「ここにいてくれて、ありがと」


今まで出会った人のなかでこんなにも幸せな気持ちをくれる人なんていなかった。
初めてだ。


「…酔っぱらいは素直だねぇ」

「んふふー」


素直だよ。
素のときならアレコレ常識だの建前だのに邪魔されて、思考に蓋をする。
酔っぱらいは理性の下の本音に正直。


おーのさんが好きだよ

これって俺の中でどういう意味になるのかなぁ。
酔いが抜けて素に戻ったとき、これ思い出した俺どんな顔すんのかなぁ。
自分のことだけど、なんか楽しみだ。



ああ…眠い。
眠くて気持ちいい。


「HAPPY BIRTHDAY」

コトン


やけに流暢な『おめでとう』


伏せてた顔を上げたら、俺の目の前には小さな白いケーキ。
その上には赤い苺じゃなくて

「…犬?」

子供のデコレーションケーキに乗ってるような、砂糖菓子の茶色い犬がこっちを見ていた。


「祝え祝えってしっぽ振ってるワンコみたいだな。ニノ」

「…これ、俺?」

「可愛いだろ」


どっちが?
俺?砂糖の犬?


「まだ食べれないよ…」

「ゆっくり寝て、夕方またおいで。
このケーキはニノのだから」


俺の。
俺のか。


「…うん、寝てくる」

「またね」

「また来るからー」


他の人にも砂糖の菓子なんて出さないでよ。
それは俺のだからね。

甘い甘い、俺のものだからね。

ね?







*****
にのみやさんはどこまでもわんこ

なにかアップできなくて
通知だけいっぱいいっていたらすみません汗