遺言・相続専門の行政書士  久我です。

前回に引き続き、遺言書を書くべき場合を考えていきます。

 

③連絡のとれない相続人がいる

 

遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。その結果を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員の実印と印鑑証明書を添付することにより不動産や預貯金の名義変更等の相続手続が可能となるのです。その際、それが本当に相続人全員であり、一人も欠けていないことを証明するため、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と、各相続人と被相続人との関係がわかる各相続人の戸籍謄本を法務局や銀行に提出する必要があります。つまり相続人の面子はごまかしようがないのです。

 

ところが、何年も音信不通で今どこにいるかわからない相続人がいる場合や、所在地は分かるが連絡を拒絶している相続人がいる場合はどうすればよいでしょうか?何としても遺産分割協議に参加してもらわないと相続手続は滞ってしまいます。被相続人名義の預貯金は凍結されて引き出すことはできませんし、不動産は各相続人が法定相続分に従って持ち分を共有する、という状態がつづくことになります。共有ということは売却や建替えの場合共有者全員の同意が必要です。つまり連絡のとれない相続人(共有者)が1人でもいるとその不動産は塩漬けとなるのです。

こんな時はどうすればよいでしょうか?

 

 

− 所在地不明の場合 −

 

とにかく所在地を突き止めて連絡をとることが必要ですが、所在地を突き止めるには二つの方法があります。

 

<方法1>戸籍の附票を取り寄せる。

戸籍の附票とは、戸籍に記載されている家族の住所の移転の記録が記載されているものです。基本的に役所の窓口で取得しますが、マイナンバーカードがあればコンビニで取得できる場合もあります。取得できるのはその相続人の配偶者及び直系血族であり、兄弟姉妹は取得することができませんが、行政書士や司法書士などの士業は職務上請求書を使って取得することもできます。

 

戸籍の附票にはその相続人の現在の住所が記載されているので、手紙を送る、直接訪問するなどして連絡を取ることが可能となります。ただし、戸籍の附票に移転した住所が記載されるのは本人が転出入届けを出し住民票を移した場合です。音信不通になるような相続人なら住民票を移さずに引っ越しをしている可能性もありますので、そうであれば戸籍の附票を取り寄せても現住所はわかりません。

 

<方法2>探偵に依頼する

音信不通の相続人が住民票を移していない場合は、探偵に依頼して居所を探してもらう、という方法もあります。ただし必ず見つかるとは限りませんし、数十万円から100万円以上の調査料金がかかる場合もありますので、この方法を取るかどうかは慎重に考える必要があります。

 

 

次に所在地が不明で連絡がとれなくても、合法的に遺産分割協議を行う方法を見ていきます。

 

<方法1>不在者財産管理人を選任する

不在者財産管理人とは、行方不明で連絡のとれない不在者の利益を守るために、その不在者の財産を管理するよう家庭裁判所の選任を受けた人をいいます。利害関係者(親族や配偶者)の申し立てにより家庭裁判所が選任しますが、選任されるのは利害関係のない親族か、弁護士や司法書士などの専門職の場合が多いようです。(選任には3ヶ月~6ヶ月程度もの期間がかかります)

不在者財産管理人は不在者に代わって遺産分割協議に参加することができ、これにより遺産分割を進めることができるのです。

不在者本人の利益を守ることがこの制度の目的なので、不在者が法定相続分以上の相続分を確保する内容で遺産分割協議がまとまることになります。

 
不在者財産管理人の仕事は遺産分割協議だけではありません。家庭裁判所の監督のもと、財産目録を作成したり財産管理の収支を明確にするための帳簿を作成し証拠書類を保管しなければなりません。これらの業務は基本的に不在者が現れ自分自身で財産を管理できるようになるまで続けなければならないので、数年間、場合によっては数十年続く可能性もあり、たいへんな労力を要する仕事なのです。弁護士や司法書士が就任した場合、管理する財産額にもよりますが毎月1万円~5万円程度の報酬が発生することが多いようです。この報酬は基本的に不在者の財産から支払われますが、不在者の財産が少ない場合は申立人が予納金として20万円~100万円程度裁判所に支払うことになります。
 
以上のように不在者財産管理人の選任は、手間、時間、費用を考えると気軽にとれる手段などではなく、最後の切り札ともいえるものだと言えます。
 
<方法2>失踪宣告を申し立てる。
所在が分からないだけではなく、生きているのか死んでいるのかも分からない状態が7年以上続く場合は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。失踪宣告がなされるとその人は法律上死んだものとみなされるので、遺産分割協議は失踪宣告された人なしで合法的に行えることとなるのです。実際にはどこかで生きていたとしてもです。不在者財産管理人の選任が最後の切り札ならこの失踪宣告はさらにその上を行く奥の手、とも言えるのではないでしょうか。
 
ただし失踪宣告がなされたら今度はその人の相続が発生することになります(二次相続)。亡くなったとみなされた時が被相続人の死亡以前の場合においては、子どもがいれば元の一次相続の代襲相続が発生し、被相続人の死亡後であれば、失踪宣告された人の配偶者や兄弟姉妹などの相続人は、失踪宣告された人の相続分(一次相続)を二次相続の相続分に応じて相続することになります。ちょっとややこしいですが、とにかく失踪宣告された人なしで有効な遺産分割協議ができる、ということになります。
 
 
 
− 所在地は分かっているが連絡を拒絶する相続人がいる場合 −
 

家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる

何らかの理由で家族との関係を断っているなどして、どうしても遺産分割協議に参加してもらえない場合でも対処法方はあります。家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるのです。そうすれば家庭裁判所から相続人全員に呼び出し状が送られるので、家族からの連絡を拒絶している相続人もこの呼び出しには応じる可能性もあります。しかしそれにも応じず、家庭裁判所からの再三の出頭要請にも応じないとなれば、調停は不成立となって打ち切られ自動的に審判手続きに移行されます。この審判にも参加しない場合は裁判所が遺産の分割方法を決定し、この決定をもとに遺産分割が実行できるのです。審判で決められた内容は調停とは違い法的拘束力があるので、従わない相続人がいた場合においては強制執行も可能です。
 
 
今回は「遺言書を書くべき人 ~その2~」として連絡のとれない相続人がいる場合の遺産分割方法を見てきましたが、いずれの方法も途方もない手間、時間、費用が必要であり、弁護士等の専門家に依頼しないと実施が難しいものばかりです。
遺言書さえあればこんな問題は未然に防ぐことができたものを・・・。遺言書の必要性を痛感しますね。