ドイツに住む子供に、

弦楽器(ヴァイオリンなど)を習わす親は多い。


日本では「お金持ちの習い事」

そう割り切られてしまう。


しかしこの国の、

音楽の懐は深くて広い。


モーツァルトやベートーヴェン。

バッハにワーグナー。


当然彼らは今もなお愛され続け、

クラシック音楽が身近に存在する。


教える先生も多いためか、

習い事として敷居が決して高くない。


子供たちのみならず、

もちろん大人達も趣味として習う。


知人に連れられ夜8時の高校へ行く。

もちろん鍵が閉められている。


少しずつ集まる、

弦楽器を担いだ大人達。


知人の紹介で招かれたそこは、

大人のオーケストラの練習会場。


一人が鍵を開け、

学校の音楽室へ。


3階にあるため、

白髪のお婆ちゃんは息を吐き笑った。


仕事をリタイヤしたご老人も、

主婦も若手も。


週一回の練習会に、

町中から集まってくる。


指揮者の先生が目配せし、

指先で指揮棒を振る。


夜8時と言えど、

春のドイツは明るい。


音楽室のカーテンから、

西陽が差し込む。


それを背に、

オーケストラが響く。


それぞれの人生を背負い、

生きてきた時間が音になる。


思わず涙がでそうになる。

「美しい…」とただただ。


音楽にはもちろん、

上手い下手と言う世界はある。


しかし、

人生と言う見方の音色もある。


様々な経験を通し、

苦労や喜びを抱いて皆ここにいる。


そんな人々が、

一つの旋律を描こうとしている。


高校の音楽室で奏でられる、

小さなオーケストラ。


深く魂に、

ゆっくり染み込んで行った。